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生き抜くための知恵と勇気。あなたはバンビの本当の物語をしっていますか?『バンビ』

生き抜くための知恵と勇気。あなたはバンビの本当の物語をしっていますか?

『バンビ』

バンビと聞けば、どうしてもデイズニーのアニメーション映画を思い出します。あるいは、童謡の「小鹿のバンビ」でしょうか? とにかく、かわいい鹿の物語をイメージしてしまいます。

しかし、本当の物語『バンビ』を知るには、ぜひこの本を開いてみてください。

この作品が生まれたのは、1923年(大正12年)のことです。左が原作の初版。右が今回刊行する『バンビ』と同じ挿絵が入った1940年版になります。

著者は、フェリークス・ザルテン。自然豊かなオーストリアで育ちました。『バンビ』は、ウィーンの新聞「ノイエ・フライエ・プレッセ」紙で連載され当時人気を博した作品です。

森に暮らす生きものたちを描いたこの作品を翻訳するために、訳者の酒寄進一さんは、およそ2週間、ウィーン郊外の湖畔の古いペンションに滞在し、大自然の中に身を置いて日本語に訳されていきました。

物語は、雄のノロジカのバンビが生まれたときからはじまります。

「キュウキュウキュウ」とニシコウライウグイス、「ポッポーポポー」とハト、「ピーヒョロピーヒョロリ」とクロウタドリ……。生まれたばかりのバンビの耳に届いてきたのは、しげみや草原を飛びまわる鳥たちの鳴き声でした。原作者ザルテンは、数々の動物物語を残していますが、読者をあっという間に森のなかに導いてくれます。

輝く太陽の下、バンビは生まれて初めて見る、たくさんの生きもの、植物に驚き、母ジカに質問をくりかえします。その姿は、幼い子どもに通じるものがあります。

しかし、自然は美しいだけではありません。秋が過ぎ、きびしい冬がやってくると、草原のようすは一変します。草木は枯れ、静まりかえる雪原の上で、バンビは弱肉強食のさまざまな死を目にするのです。

そのようななか、バンビは立派な角を持つ古老のノロジカと出会います。古老はこういいます。
「自分の耳で聞き、鼻でかぎ、目でみるのだ。自分で学べ」「しっかりいきるのだ」と。

バンビは、古老のことばを道しるべに、さまざまな喜びや悲しみ、恐怖や孤独の経験を経て、おとなのノロジカへと成長していきます。

そうして、いつしか、バンビの角は、森で一番の立派な角にかわっていきます。あの古老のように……。


バンビの成長、別れ、恋、そして老い……。『バンビ』の一生は、人間の一生を映し出しているともいえます。物語を読まれるみなさんの年齢によって、心に残る場面や感じ方が変化する作品でもあります。

約100年前に生まれた動物物語の名作を、酒寄進一さんの新訳にてお届けします。
たくさんの世代の方に手にとっていただき、その年齢でしか叶わない『バンビ』との出会いをぜひお楽しみください。

担当・S 
60才目前の自分は、古老のシカとなったバンビの姿、言葉に、思わず最後、涙しました。

2021.03.24

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