今月の新刊エッセイ|いわやけいすけさん『うちゅうはきみのすぐそばに』
今月取り上げる『うちゅうはきみのすぐそばに』を手がけたのは、日本で初めて風船を使った宇宙撮影を個人で成功させた、いわやけいすけさん。試行錯誤しながら撮影を行う過程で、「宇宙は想像以上に近いところにある」ということに気づき、それを子どもたちに伝えたいと思ったそうです。絵本の刊行に寄せて、ふうせん宇宙撮影について、そして大好きな宇宙について、存分に語ってくださいました。
宇宙が大好きだ
いわや けいすけ
宇宙。あなたは好きですか? 私の宇宙好きは絵本がきっかけでした。幼稚園のころ『宇宙ステーション』(福音館書店)(※註)という絵本を買い与えてもらいました。私は物心つくより前から機械や乗り物が大好きだったので、この絵本を買ってくれたのだろうと思うのです。
私が子どものころは宇宙ステーションはまだありませんでした。近い将来宇宙ステーションというものが出来るんだという紹介も兼ねた本だったのですが、何度も何度も読んでもらい、今でも詳細を覚えているほどです。読んでもらうたび、科学ってすごい、テクノロジーってすごい、機械ってすごいと感動したものです。出来ないことを可能にしてくれる、知らない世界を切り拓いてくれる、そこに心躍ったのです。
宇宙・科学・機械が好きだった私は大学では航空宇宙の研究をしていました。「三つ子の魂百まで」という言葉がありますが、本当にその通りなのだと思うのです。私は自分自身でも宇宙に触れてみたいと思っていました。しかし、宇宙について知れば知るほど、それはとても難しいことだと知っていきました。ロケットによる宇宙開発はとても規模の大きいプロジェクトで、おいそれとできるものではないからです。
そんなある日、「風船」でも宇宙が見られるかもしれないと知りました。風船だったら原理が簡単なので、自分でも宇宙に触れられるかもしれないと思い、風船で宇宙を見る装置を開発し始めたのです。当時は国内での成功例も皆無でしたから、必要な材料も、やり方も、関わる法律も、なにも分からないところからの出発でした。
試行錯誤を繰り返し、失敗を重ねていくうち、少しずつ装置は形になっていきました。 延々と失敗を繰り返し、その数も100回程度になったころです。風船にカメラを搭載した装置で、初めて宇宙を見ることが出来たのです。
風船の飛ぶ高さはわずか30㎞程度、富士山の10倍程度です。 地球の直径は12742㎞なので、ほんのちょっと地上から離れただけなのです。それなのに、昼間であっても空は真っ暗に変わり、宇宙の入り口ともいえる世界になるのです。想像以上に宇宙はすぐそこにあったのだと知らしめられました。
そんな景色を見せつけられ、私たちの暮らす世界は地球がまとう薄い皮1枚の中の出来事だと気付かされました。宇宙の入り口から地球上の水の営みを全て見て取ることが出来るのです。海でできた雲が陸に雨をもたらし、川は海に注ぐ。地球の中で繋がっているのです。
こんなことも思うようになりました。もしかすると、人間も水と同じなのではないか、と。人間は地球上から飲み物や食べ物を取り入れ新しい細胞を作ります。そして老化した細胞を捨て、その細胞は地球に還っていきます。体中の細胞が、取り入れたもので全て入れ替えられるのは、ものの数か月だといいます。一度捨てられたものは、微生物に分解され、他の動植物や微生物、バクテリアなどの栄養素となります。自然に還った自分出身の物質は形を変え、ふたたび自分の中に戻ってくるのです。地球の中で繋がっているのです。物質だけでなく、全ては繋がっていくものなのかもしれません。生命の遺伝情報、書物として蓄積され受け継がれる知識、そして想いまでも。
そんなことを考えながらこの本を作りました。私は宇宙が好きです。そこには未知の世界があるからこそ好きでもあるのですが、それだけではありません。宇宙は、これまでと違った視点・切り口で、これまで知り尽くしていたと思い込んでいた、地球とか私たち人間とかいった物事を見直させてくれます。そして、新しい視点、世界観を与えてくれるからこそ「大」好きなのです。
皆さんも空に手を伸ばし、等身大の地球と宇宙、そして人間を感じてみてください。
※『宇宙ステーション』長友信人 文/穂積和夫 絵
1990年代から進められた国際宇宙ステーション計画について、宇宙工場や居住室など、その全貌を当時の最新データをもとに描いた絵本。1987年刊行(現在は刊行していません)。
いわや けいすけ
1986年、福島県生まれ。北海道大学工学部在学中より風船を使った宇宙開発に取り組み、卒業後会社を設立し研究開発を進めている。執筆や講演活動なども。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。』(キノブックス)がある。詳しくは、ホームページ(「ふうせん宇宙撮影」)へ。
2018.01.31