今月の新刊エッセイ|増田和子さん『パン パン ジェントルパン』
今月の新刊『パン パン ジェントルパン』は、声に出して読むと楽しいリズミカルな言葉とポップな絵が魅力の絵本です。フランスパンの紳士、ジェントルパンが繰り広げる愉快でおかしなお話の作者は、今作で初めて絵本を手掛けた、増田和子さん。刊行にあたり、エッセイを寄せていただきました。
ダジャレ人間の血筋
増田和子
みなさんお気づきとは思いますが、「ジェントルパン」はダジャレです。フランスパンが主人公ということで、ジェントルマンのマンをパンに変えた、という本当にしょうもないダジャレです。
今回、このエッセイを書いていて、自分が、しょうもないくだらない話好きの人間であることに改めて気がつきました。そこで、ナゼこんな人間になったのか、思い当たるフシを書いてみることにしました。
私の母は、頭頂部の薄毛をカバーするために、ウィッグを愛用しております。ウィッグをはずした時は、かわいい白いアルパカのぬいぐるみの頭に、そのウィッグをかぶせています。「かわいいでしょう?」と言って、カツラをかぶせられたアルパカを、カツラごと撫でているのを見たとき、私のしょうもないこと好きは、母親の血筋から来ているのかもしれないと私はピンときました。
父が体調を崩し、自宅で療養していたとき、父の右足の裏の皮が、水虫のせいでひどくむけておりました。私は気の毒に思い、アロエクリームを自分の右手にベットリつけて、父の足にペタペタ塗りつけてあげました。そのあと父はすぐ入院することになりました。
それから一ヶ月ほど経ったある日、突如として私の右手の皮がむけはじめ、どうやらあのとき、父の水虫がうつっていたらしいことをさとりました。それと同時に、少し嫌な予感がしました。その二日後に父は息を引き取りました。「お父さん、水虫になって最後の挨拶に来たな」と私は思いました。夢枕に立つとかではなく、水虫で知らせるあたり、くだらない話好きは父親の血筋のせいでもありそうだと私はピンときました。
ところで、ジェントルパンのおはなしは、いつどうやってできたのか思い出せません。数年前に描いたラフスケッチが企画会議を通ったという知らせを、担当編集さんから受け取ったとき、数年ぶりにラフスケッチを見ましたが、コレは本当に自分が描いたのか? と怪しんだくらいです。でも、おはなしは、ジェントルパンが散歩していて、ハプニングが起こって、間違えて、焦って、助けてもらってなんとかなった。バンザーイ! という内容で、まるでいつもの自分のことみたいだったので、やっぱりコレはしょうもないくだらない話好きの自分が描いたことに間違いなさそうでした。
昨今ではダジャレも、ダジャハラだ! とか言われかねない世の中ですが、私のようなしょうもないくだらない話好きのダジャレ人間は、まだまだたくさんおられると思います。その隠れダジャレ人間の方々とは、ずっとずーっと前の血筋をたどれば、同じ先祖だったりするかもしれません。
『パン パン ジェントルパン』は、そんな私がつくった絵本なのだから、子どもも大人も無責任に、「パーン♪ パーン♪ ジェントルパーン♪」と、声に出して元気よく楽しんでもらえたら、幸いでございます。
ますだかずこ●1976年、神奈川県横須賀市生まれ。朝日カルチャーセンターの荒井良二さんの絵本講座(ぼくの絵本塾)で学ぶ。近年は、ネイティブアメリカンのカチナドールに影響を受け、布で人形を制作し発表している。絵本は、今作が初めて。
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2024.11.05