あのねエッセイ

今月の新刊インタビュー|河部壮一郎さん『恐竜のあたまの中をのぞいたら』

7月の新刊『恐竜のあたまの中をのぞいたら ー脳科学でさぐる恐竜の感覚ー』は、化石の頭骨を手がかりに、恐竜の「見る・聞く・かぐ」感覚を探る絵本です。監修をお願いした河部壮一郎さんは、福井県立大学の恐竜学研究所で脳科学の視点を活かした恐竜研究に従事する第一線の研究者。研究内容や子どもの頃の化石との出会いについてなど、科学書編集部がお話をうかがいました。

恐竜の研究者、河部壮一郎さんに聞く――頭骨から探る恐竜の感覚

まとめ・科学書編集部


大むかしの恐竜は、身のまわりの世界をどのように感じ取っていたのでしょうか。化石の頭骨には、それを知る手がかりがたくさん残されています。

絵本『恐竜のあたまの中をのぞいたら』の主人公 ぼく のおじさんは恐竜の研究者。ある日、ふたりは博物館を訪ねます。まずはティラノサウルスの頭骨をじっくりと観察。目の穴の位置からは、その恐竜がどんなふうにものを見ていたかがわかります。神経が通る穴がたくさん並んだ顎は、かなり敏感だったようです。頭骨の後ろから見える骨のかたまりは「脳かん」。脳やそのほかの器官が収まっていた場所です。脳はやわらかいので、恐竜が死ぬとくさってなくなります。けれども、脳かんの内側には、脳などがおさまっていた空間が残っています。この空間を型取ったものをエンドキャストと呼びます。ここには、さらなる恐竜のヒミツがかくされているのです……。

この絵本の監修者、河部壮一郎さんは、福井県立大学の恐竜学研究所で、恐竜の脳の研究に携わっています。研究室では、頭骨をCTスキャナで撮影し、エンドキャストのかたちを確かめます。すると、脳や内耳のおおよその形をつきとめることができるのです。

「脳は、よくはたらく部分が大きく発達します。ですから、エンドキャストの形を見れば、どんな感覚が優れていたかを推測できるのです。たとえばティラノサウルスの脳は、ワニの脳に形が似ていて、においをかぐのが得意だったようです。また、鳥に近い恐竜、バンビラプトルの脳は、目で見た情報をあつかう部分が大きいので、目がよかったと考えられています」(河部さん)。

化石になった恐竜は、大むかしに命がつきて、脳もとっくになくなっています。けれども頭骨さえあれば、その恐竜が生きていた頃、どんなことが得意だったかを確かめることができます。河部さんは日々、ワクワクしながらCTでスキャンした画像を眺めているそうです。

「外から見てもわからない内側の構造がだんだん見えてくる過程には、宝探しのような楽しさがあるんです」

スキャンで得たデータを3Dプリンターに入力して、エンドキャストの模型をつくることもあります。

「モニターで画像を見て、だいたいわかっているつもりでも、実際に模型を手にすると、思っていた以上の発見があります。かたちや構造を理解するには、手に持って、体感するのが一番ですね」

河部さんは幼い頃から、恐竜や化石に関する本や図鑑が大好きで、毎週届く恐竜の雑誌を楽しみに読んでいたといいます。

「初めて化石にさわったのは、小学生のときでした。葉っぱの化石が掘れるスポットを訪ねて、本物を手に取ったときの感動は鮮明に覚えています。本で得た知識が実際の経験に結びつくことで、深く心に残ったのだと思います」

この絵本には、主人公が化石とじっくり向き合う場面がたくさん描かれています。

「ここを見るとこういうことがわかるよ、この恐竜とあの恐竜はここがちがうんだよ、といったポイントがわかると、博物館に足を運んだとき、展示を見る目がちょっと変わるんじゃないかなと思います」

絵本を読み終わったら、みなさんもぜひ、お近くの化石に会いに行ってみてはいかがでしょうか。


河部壮一郎(かわべ・そういちろう)
福井県立大学恐竜学研究所准教授、福井県立恐竜博物館研究員。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。今、生きている鳥の脳の形を調べることが、恐竜の理解にもつながると考え、学生のころは鳥類の研究をしていた。その後、博物館勤務を経て現職。フクイベナートル、トリケラトプス、ティラノサウルスをはじめとするさまざまな恐竜の脳や神経、内耳、血管などの形を調べて、生きていたときの恐竜の様子を探る研究に取り組んでいる。著書に『デジタル時代の恐竜学』(集英社インターナショナル)など。

2024.08.06

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