あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|花山かずみさん『せっせ せっせ』

10月の新刊『せっせ せっせ』は、「こどものとも年少版」2020年8月号で刊行、多くの反響をいただき、このたびハードカバー化されました。ひとりの女の子の「夢中になる気持ち」がだんだんとまわりに伝わっていくストーリー、隅々まで描き込まれ、多様な人物が登場する場面は、読むたびに新しい発見があります。作品に込められた思いを著者の花山かずみさんにつづっていただきました。

ポンペンペン

花山かずみ


『せっせ せっせ』にでてくる「ポンペンペン」という言葉は私が考えたのではありません。それは長男と次男を保育園に迎えに行った帰り道のこと、ちょっとだけという約束で公園に寄りましたが、二人は砂遊びに夢中になり時間はどんどん過ぎていきました。

私「ちょっとだけって約束したよね」
長男・次男「まだちょっとじゃない」

この会話が繰り返され、疲れ果てた私がベンチに座ってボーッとしていると「ポンペンペン ポンペンペン」とリズミカルで呪文のような言葉が聞こえてきました。夕闇の中、真剣な表情で「ポン」とバケツの砂をひっくり返して、「ペンペン」と固める動作をしながら二人が呟いているのを、面白いなーと思ってノートに書き留めたのでした。

それからだいぶ経ち、そのノートを見返していたら、小さい頃の私自身も砂遊びに熱中していたことを思い出しました。砂場に手を入れた感触、お団子を丸くする工夫、トンネルに流した水はすぐ消えたこと、落とし穴にわざとアリを落としたことなどなど。でも、いつもいいところでお迎えが来たり、5時のチャイムがなったりで途中でやめなくてはならず、「あー、もうちょっとだったのに」という物足りなさを抱えて家に帰っていました。

はじめは、そんな子ども時代の「もうちょっとだったのに」を満足させたいという個人的な気持ちで作りはじめた『せっせ せっせ』ですが、一番はじめに小さな山を作った女の子(タマちゃん)を描いたとき、この絵本に登場するたくさんの子どもたちを取り巻く世界を、私がこうだったらいいなーと思う社会として描きたいと強く思いました。海外にルーツを持つ子どもたち、自分の世界を大事にする子、園の先生と給食の先生、パンを配達するパン屋さん、車椅子の子のいる小学生グループ、工事のおじさんたち、外国からの人たち、いろいろな人がいて当たり前のそんな社会です。キュッと結んだ口元のタマちゃんがそうさせたのかもしれません。

そう決めると不思議なことに登場する子どもたちのモデルとなる実在の子どもたちが次々に浮かんできました。例えば娘の同級生の運動神経抜群の「テミちゃん」、息子の野球仲間の「しんごくん」、父の同僚の「ニッタさん」などなど。身近な登場人物だったので、この時はこうするだろうなーなどと想像しながら描けました。そして、それと同時に “山を作ったときにできた穴のその後  と “登場人物  を紹介した「せっせ新聞」を作りました。

発売してしばらく経ったある日、埼玉県の小学校の先生が3、4年生の国語の時間に『せっせ せっせ』と「せっせ新聞」を題材に授業をされたことを大村はま記念国語教育の会事務局長のKさんから伺い、嬉しいことに3、4年生の皆さんからの感想文をいただきました。感激してお返事にまた新聞を作ると、今度は「せっせせっせのその後」のアイデアを送ってくれるなどとても幸せな交流が続きました。

『せっせ せっせ』に登場するたくさんの子どもたちとページを行きつ戻りつしながら楽しんでいただければ幸いです。それとともに「せっせ新聞」もご覧いただくと、より立体的な世界となって身近に感じられると思います。ぜひお試しください〜。



はなやまかずみ●千葉県生まれ。女子美術大学卒業。建築設計事務所やデザイン事務所などに勤務後、絵本を描きはじめる。絵本に『まくらのマクちゃん』(徳間書店)『ひみつのかんかん』(偕成社)『ゆりちゃんのおひなさま』(PHP研究所)『スタコラサッサ』(こぐま社)『しゃっく しゃく』(「こどものとも年少版」2023年8月号)『ママのバッグ』(「同」2016年9月号)『くもくもじまの カミナリいっか』(「こどものとも」2023年4月号)『ねこまたえん』(「同」2022年7月号、以上福音館書店)など。千葉県在住。

2024.10.02

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