小学校一年生のための理想の国語教科書『にほんご』
『にほんご』
子どもたちにとって理想の国語の教科書はどのようなものか? 4人の編集委員(安野光雅/大岡信/谷川俊太郎/松居直)が学習指導要領にとらわれず、自由な立場で言葉の面白さや豊かさを具体化していった本が、1979年の刊行以来読み継がれている、小学校一年生のための国語教科書(私案)『にほんご』です。
この本では、「聞く」「話す」ことを先行して大切にしています。
そもそも長い日本の歴史で、読み書きができるようになったのは、つい最近のことになります。それまでは、「聞く」「話す」なかで、にほんごは発展していきました。
言葉には音、リズムがあります。早口言葉、なぞなぞ、方言、てまりうた、かぞえうたなど、文字からではなく耳から伝わるものがあります。そのため、小学校一年生になったら教科書で文字を覚えなければならないという発想は横に置いて、まずは、過去から現代までのあらゆる豊かな「言葉の素材」をあぶり出し、言葉を秩序立てて紹介していこうという試みが本作品では成されています。
たとえば、下の漫画のセリフの引用は、白土三平の『サスケ』とちばてつやの『あしたのジョー』から。「ヒタヒタ」「ガシャーン」「カラン」「ザッザッ」「ドサン」「ガバッ、ボキッ、ズシリッ」「ポチャン」「ガサガサ」……。にほんごの擬声音の豊富さには驚きです。
言葉は何よりも人と人をつなぐ大切なものです。小学生でも携帯電話を持つようになった現代、携帯越しの言葉のやり取りが増え、言葉が変容していく一方ですが、あらためて人と人との関係から生まれていく言葉に着目し、「言葉の本質」とは何か、を探っています。
また、「ことばは、からだのなかからわいてくる」と谷川俊太郎さんは綴ります。知識の延長として言葉があるのではなく、気持ちや感情や体の延長に言葉が自然にあるということをいろいろな例で紹介しています。
この本には、今私たちが抱えている言葉の問題のすべてが網羅されているといっても過言ではありません。自由に作ると、教科書は、どのようなものになるのか……。ある意味、作品は未完成の「実験的な本」であり、「教師、教育界への提案書」でもあります。
子どもたちのみならず、言語や教育に感心のある方々にも幅広くお届けしたいロングセラーです。
担当S 私は母語広島弁でカープを応援するときに、いつも言葉が生きていると感じるのです~。
2023.11.02