特別エッセイ|富安陽子さん「子どもたちを元気にする魔法」~「がっこうのてんこちゃん」に寄せて~
「初めてのことが苦手」「なんとなく学校に行きたくない日もある」……テンの女の子を主人公に、学校で誰もが経験する不安を少しずつ乗り越えていく姿を描く幼年童話シリーズ「がっこうのてんこちゃん」(ほそかわてんてん 作)。昨年の第1弾刊行に続き、今年春に第2弾『きょうはおやすみします がっこうのてんこちゃん』を刊行いたしましたが、実は、刊行の度に、熱い感想のメッセージを寄せてくださっている作家がいます。
「やまんばのむすめ まゆのおはなし」や「オニのサラリーマン」シリーズの作者、富安陽子さんです。富安さんに、「がっこうのてんこちゃん」の魅力についてエッセイを寄せていただきました。
子どもたちを元気にする魔法
富安陽子
てんこちゃんは、テンの子どもです。てんいちくんも、てんにゃちゃんも、コトブキ小学校に通う十人の…いえ、十ぴきの一年生は全員、テンの子どもです。テンというのは、イタチの親戚みたいな動物ですが、てんこちゃんの学校生活は、人間の子どもと少しも変わりません。初めて行く小学校のことが不安だったり、先生の質問にうまく答えられるかドキドキしたり…。
てんこちゃんが不安になると、てんこちゃんの頭の中には、“どうしようオバケ”が出てきます。そうするともう、てんこちゃんの頭は“どうしよう”でいっぱいになって、どうしようもなくなってしまうのです。そんなてんこちゃんを見ていると、「わかる、わかる」「そう、そう」と、うなずきたくなります。
昔々小さな女の子だった私自身の記憶が、物語の中のてんこちゃんの気持ちとつながって、なんだか、自分を見ているような気がしてくるから不思議です。六十年も昔に小学生だった私がそうなんですもの、きっと今の子どもたちは、もっと強く、もっと深く、てんこちゃんとつながれることでしょう。もしかしたら、自分の心の中にも、“どうしようオバケ”が住んでいることに気付くかもしれません。
でも、大丈夫。“どうしようオバケ”は、みんなの心の中に住んでいて、心配ごとや不安の種をかかえているのは誰でもいっしょなんですから。そのことに気付いたら、きっと、ちょっぴり心が軽くなるはずです。ちょっぴり元気になれるでしょう。
「ガンバレ!」とお尻を叩くわけでも、「しっかり!」とハッパをかけるわけでもないのですが、てんこちゃんの物語には、子どもたちを元気にする魔法がかけられているようです。「大丈夫。ひとりじゃないよ」という声が、頁のむこうから聞こえてくる気がするのです。
どうぞ、このホッコリやさしいお話が、たくさんの子ども達の心に届きますように。
2024.04.26