桜が満開の福島県三春町。お兄ちゃんになったあっくんの成長のお話『あっくんとデコやしき』
『あっくんとデコやしき』
樹齢千年の滝桜が有名な福島県三春町は、江戸時代から300年続く伝統工芸の「デコ人形」で知られる町です。デコとは、張り子でできた人形で、現在でも職人さんが手作りで製作しています。デコを作る人形工房はデコ屋敷と呼ばれ、伝統をうけつぐ手仕事を見学するために、多くの観光客が訪れる名所となっています。
そんな三春町にあるデコ屋敷を舞台に、少年・あつおが成長する姿を描いたお話が『あっくんとデコやしき』です。
梅、桃、桜が咲きほこる心おどる季節ですが、妹が生まれてから、お母さんに手伝いを頼まれてばかりのあっくん。遊びたいのに、いらいらはつのるばかりです。その日もデコ人形の職人をしている父さんに、弁当を届けるよう頼まれました。
あっくんは桜の枝を折ったり、猫に石をぶつけたり、トカゲを蹴りつけたり……、いらいらをぶつけながら、お父さんの仕事場「デコやしき」へ到着します。
しかし、そこにお父さんの姿はありません。そればかりか、ずらっと並んだデコ人形の目が怪しく光りだし、どこからか気味の悪い歌声まで聞こえてくるではありませんか……。
「……だれも いないと おもっても おてんとさまが みているぞ……」
おびえるあっくんの前にあらわれたのは、三体のあやかし。一体は桜色の着物を着た女の姿、二体目は大きな虎、そして三体目とぐろを巻いた龍! 三体のあやかしは「許してほしければ弁当をよこせ」とあっくんに詰め寄ります。あっくんはお父さんのお弁当を守り切れるでしょうか?そしてあやかしの正体とは?
文を手掛けたのは、ブルガリア語の翻訳者で、日本の民話の採録・研究にも携わる八百板洋子さん。1946年に福島で生まれた八百板さんは、震災で多くを失った郷里の未来について、常に心を砕いてこられました。絵を手がけたの垂石眞子さんも、ご親戚が被災され、被災地支援に尽力されてきました。そんなおふたりが「福島がずっと守ってきたもの」、「私たちがこれからも守っていくべきもの」をテーマに作ったのがこの絵本です。
不思議な体験を通して、頼もしく成長したあっくんの誇らしげな表情と、その自信が力に変わっていくことが伝わる頼もしい後ろ姿に、福島の未来が重なってみえます。春の花咲くこの時期に、ぜひあっくんの成長物語を読んでみてくださいね。
担当・H
10年ほど前、デコ屋敷を訪れたことがありました。薄暗い屋敷に並んだ、たくさんのデコ人形たちの佇まいが今でも目にやきついています。
2020.03.06