作者のことば

作者のことば 牧野夏子さん『こいぬをつれたかりうど』

あるところに、年老いた狩人がいました。鉄砲を使わずに、小犬と縄だけで獲物をつかまえるというのですが、一体どうやって? 中国に伝わる、意外性あふれるトラ退治の物語、『こいぬをつれたかりうど』。ハードカバー化を記念して、初出「こどものとも年中向き」2017年1月号の折り込み付録に寄せられた、作者の牧野夏子さんのエッセイを再録してお届けいたします。

むかしむかし、とおいくにで

牧野夏子

昔話を読むのが好きです。自分が生まれ育った土地に伝わる昔話と、遠く離れた国の昔話、どちらも面白いのだけれど、私にとって、その味わいはかなり違う。異国の話なら、摩訶不思議なできごとにびっくりしつつも、見るもの聞くこと珍しいのは当たり前、大昔なうえに遙か海の向こうときたら、何が起きても不思議はない、と思える。同じく奇想天外な話でも、日本の昔話だと、その物語の中の景色のおもかげが、かすかにでも目の前の風景に残っているようで、やはりどこか、自分が今身を置いているここと地続きに感じる。

子どものころ、どちらかというと、日本の昔話より外国の昔話のほうが好きだった。物語に非日常を求めていたので、時間的にも空間的にも、ここからうんと離れたところにつれて行ってもらいたかったのだ。それに例えば、やまんばは、ひょっとしたらこの近くにいるかもしれない、という気がしてくる。でも、バーバヤガーなら、遠い国にはいるんだろうけど、ここにはいないから、安心。そんな気持ちもあったと思う。

野生のトラは、バーバヤガーと同じく、日本にいない。だから、トラが出てくるとそれだけでエキゾチック、ああ、遠い異国のお話だ、という感じがすごくする。ほぼ同じ筋で、中国ではトラ、日本ではオオカミと、登場する動物だけが異なる昔話もある。実際のこの土地にいる(いた)動物のほうが、その強さや恐さを感じるには効果的だろう。でも今回は「むかしむかし、とおいくにで」、「そんなことがあったの?! ははは!」と楽しんでいただけたらさいわいです。
 

(こどものとも年中向き2017年1月号 折り込みふろくより)

牧野夏子(まきのなつこ) 1977年、京都市生まれ。大学で中国文学を専攻、中国・天津に1年間語学留学。絵本の仕事に『てんを おしあげた はなし』(「こどものとも」2007年11月号)『おうじと たこと きょじんのくに』(「同」2010年9月号)『キリンとアイスクリーム』(「こどものとも年少版」2009年10月号)『おふろのかたつむり』(「同」2013年11月号)『昭和十年の女の子』(「たくさんのふしぎ」2017年12月号/以上、福音館書店)『クイクイちゃん』(絵本館)がある。京都市在住。

2024.04.03

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