作者のことば 鬼頭 祈さん『いちごになりました』
庭にいちごを埋めると、たちまち芽が出て花が咲きました。そこに、ちょうちょが飛んできて蜜を吸うと、赤と緑の“いちごちょうちょ”になりました。“いちごちょうちょ”は海へ飛び、それをさかながパクリ。すると今度はさかなが、“いちござかな”になりました――。食べて食べられて、いろんなものがいちごになっていく、のんびり楽しいナンセンス絵本『いちごになりました』。ハードカバー化を記念して、初出「こどものとも年中向き」2021年5月号の折り込み付録に寄せられた、作者の鬼頭 祈さんのエッセイを再録してお届けいたします。
いちごの大冒険
鬼頭 祈
幼い頃、よくいちご狩りに出かけました。
いちご畑では、普段お店で見かけることのない様々ないちごと出会いました。色がまだらなもの、ぐにゃぐにゃの形のもの、とても大きいもの、小さいもの、ひょろりとしたもの、ずんぐりしたもの……。
そんないちごたちをおなかいっぱいまで食べるので、いちごのつぶつぶが体中から出てくるんじゃないかと、どきどきしたものです。
同じころ、かたつむりを飼うことに夢中でした。かたつむりの赤ちゃんは殻が薄いので、餌を食べると餌の色が透けて見えます。ニンジンを食べるとニンジン色の殻になる。そしてニンジン色のうんちをする。レタスを食べるとレタス色の殻になる。そしてレタス色のうんちをする。その様子をじっと観察していた記憶があります。
もし、わたしたちのからだの中でも同じことが起こっているとしたら? いちごを食べると、じぶんがいちごになるの?
いちご狩りとかたつむりの記憶が合わさって、この絵本ができました。
すべてのものは、変化しつづけています。目で追うことができる変化だけでなく、目で追うことができない変化もありますが、いつだって冒険の途中なのです。この旅を楽しめることができるよう、想像するこころを忘れずにいたいです。
鬼頭 祈(きとう いのり) 1991年、静岡県生まれ。京都造形芸術大学日本画コース卒業。日本画の技法を生かし、小人やいちごをモチーフとした現代的な絵画を制作する。国内外の個展を中心に活動するとともに、広告やアニメコラボグッズなどにも作品を提供している。第190回ザ・チョイス入選(江口寿史氏審査)。絵本に『スプーンのおうじさま』(文・黒﨑美穂「こどものとも年中向き」2018年3月号)『こびとのおうち』(WAVE出版)がある。東京都在住。
2024.11.01