今月の新刊エッセイ|つるた ようこさん『やさいの おにたいじ』
今回ご紹介するのは、つるたようこさんによる新刊『やさいの おにたいじ』。源頼光ら四天王による鬼退治物語として知られる御伽草子「酒呑童子」を大胆にアレンジした作品で、登場人物はなんとすべて野菜! あのねエッセイでは、つるたさんが、野菜に対する熱い思い、そして野菜愛にあふれた絵本の見どころをたっぷりと語ってくださいました。
野菜が鬼退治?
つるた ようこ
野菜が鬼退治? このお話は御伽草子の「酒呑童子」を元に6人のヒーローたちも、鬼もすべてが野菜、というお話です。不思議に思われるかもしれませんが、わたしにとっての野菜は、食べるもの(体の栄養)であるとともに想像力と創造力(心の栄養)を湧き立たせてくれる存在で、お話の主人公にすることは、野菜へのオマージュ「鶴の恩返し」と思っています。
同じ野菜でも色や形、大きさも違い(なので画一化された野菜より、個性豊かな野菜に魅かれます)、八百屋さんやスーパーの野菜売り場で足を止めて、じーっと見つめて考えているのも、実は、夕飯の献立のためではなく、野菜の表情を見て、この野菜、いい顔しているなあ……とか、いまどんな気持ちなんだろう……と思って見ているのです。ようやく気を取り直して、食べ物として野菜炒めする段階になっても、しめじの家族を引き離すのもどうかと悩み、パプリカを切れば満面の笑顔でこちらに挨拶してくれるので、その度、手を止めてしまいます。姪から勧められて読んだ御伽草子の面白さ、アニメーションのルーツである絵巻物の底知れぬ魅力、そんな大好きな野菜と御伽草子と絵巻物を、すべて刻んで一緒に炒め、編集の方々の絶妙な味付けで出来上がった一品が、この「やさいのおにたいじ」です。栄養満点! しかもその野菜たちは京都生まれの京野菜です。初めて訪れた京都の錦市場で目にした、堀川ごぼうはまるで、細身の丸太のようでとても驚きました。その横には顔を真っ赤にした金時人参が横たわっており、鹿ヶ谷かぼちゃにいたっては、仏像のように棚の上に鎮座しておりました。直径10センチはありそうなほどの大きな賀茂なす、他のどの野菜にも見られない美しい薄藍色の慈姑(くわい)、ヤマタノオロチならぬ八ツ頭の迫力……。毎年、京都を訪れる度に市場をのぞくのが楽しみとなりました。そうなると、それぞれの土地の特産野菜にも興味が湧き、調べてみると、まあなんて面白いのでしょう。沖縄のゴーヤのユーモラスなこと! ちなみにゴーヤは最近、ベランダ栽培でもよく見受けられますが、そのまま収穫せずにおくと他の野菜と同様に黄色から真っ赤になっていき、まるで青鬼が赤鬼になったみたいです。(そして熟すと種がはじけます!)
絵巻物の「酒呑童子」は、童子の姿だった鬼が酒を飲んで真っ赤な顔になり、退治されるときには首が飛ぶというなかなか迫力ある画面ですが、ここでは主人公たちが野菜ですから、鬼退治も肉料理のような脂ぎったことはなく、野菜の味を生かした一味違った鬼退治となっております。いずれの勇士たちも個性派ぞろいですが、野菜なだけに、腕っぷしは決して強くはありません。また、我こそがヒーロー! といって主張する訳でもありません。それぞれの野菜たちがそれぞれの知恵と勇気をふりしぼり、活躍します。もちろん、京野菜たちですから、話す言葉は京言葉です。はじめはイメージだけの京言葉しか思いつきませんでしたが、編集の過程でネイティブになおしていただき、京野菜独自の色や形を楽しむとともに京言葉のリズムも楽しんでもらえるようになりました。適材適所という言葉通り、子供たちにも、自分が得意なところを生かし、足りないところは、仲間と力をあわせて、困難にも立ち向かえる知恵と勇気を持ってほしいと思います。
そして最後に忘れてならない、このお話のもう一人の主役の鬼。果たして鬼役を射止めた野菜とは? ゴーヤ? 残念、ゴーヤではありません。
あのね、その野菜はね、とても大きくて角があって、ゴツゴツしていて、そのままでは、とても固くて食べられない野菜です。さて、どんな野菜でしょう……?
つるた ようこ
1965年生まれ。玉川大学文学部芸術学科卒業。染織、版画、立体など、技法にとらわれず、自らの世界を表現している。著書に『夜の校長センセイ』(ぱる出版)、絵本に『まめとすみとわら』『だいこんとにんじんとごぼう』『やさいとさかなのかずくらべ』(以上、アスラン書房)『ねぇ だっこ』『おとうと』『しーっ しずかに』(以上、佼成出版社)『のら犬』(大日本図書)『じゃがいものんたの わすれんぼう』(2020年3月号こどものとも年中向き、福音館書店)など。東京都在住。
◎絵本の一部を、京都出身の社員が朗読した動画を公開しました! こちらからご覧いただけます。
2020.02.04