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1930年台のロンドン。3人の少女たちが描く将来の夢とは……『バレエシューズ』

1930年台のロンドン。3人の少女たちが描く将来の夢とは……


『バレエシューズ』

みなさんは、小さい頃、どんな将来の夢をお持ちでしたか? 私は8歳くらいまで幼稚園の先生になりたいと思っていました。その後も年齢ごとにいろいろな夢を描きながら、今は子どもの本に関わる仕事をしています。本日は、将来の夢を模索し始める年頃の少女たちに、ぜひ読んでほしいイギリスのお話『バレエシューズ』をご紹介します。

身寄りのない3人の赤ちゃんが、化石学者(通称・ガム)に引き取られます。難破した船から助け出された長女ポーリィン、瀕死のロシア人から預かった次女ペトローヴァ、ダンサーであった母親からバレエシューズと共に送られた三女ポゥジー。それぞれ2歳ずつはなれていて、姉妹のように育った3人は、学校に通い始めた頃、名字がないことに気がつきます。化石にちなんで“フォシル” と名乗ることに決めた3人はある時、フォシル3姉妹としての誓いを立てることに決めました。


「我々の名前が歴史の本にのるように努力することを誓います。だれも、それが我々の先祖のおかげだと言うことはできません。フォシルという名前は我々だけのものだからです。」

こうして3人は、保護者として生活をともにする、ガムの甥の娘シルヴィアや、シルヴィアの乳母ナナに見守られながら成長します。やがて3人の住む屋敷に下宿することになるダンス教師や、文学博士のすすめで、3人そろって児童ダンス演劇アカデミーに入学し、自立への道を歩み始めます。演劇が好きで女優志望のポーリィンと、天性のバレエの才能を持つポゥジーは意気揚々と学校生活を送りますが、舞台が嫌いなペトローヴァは心から学校生活を楽しめません。

12歳になるとオーディションを受けて報酬をもらえるプロの女優になれるので、みなが家計のためにオーディションを受けつつ、舞台に立つうち、3人はそれぞれ本当に自分が進む道を選び始めます。3人が見出した将来の道とは? 

『バレエシューズ』は1936年にイギリスで刊行されて以来、英米で長い間愛読され、これまでに何度も映像化されています。日本でも『赤毛のアン』の訳者として知られる村岡花子さんをはじめ、何人もの訳者によって翻訳されてきた本作を、子ども時代に作品のファンだったという朽木祥さんによる完訳版でお届けします。

『バレエシューズ』の魅力のひとつは、元女優であった作者、ノエル・ストレトフィールドが描いた臨場感あふれるショービジネスの世界です。児童ダンス演劇アカデミーでの稽古、オーディション、イギリスを代表するシェイクスピア劇の上演、称賛されて天狗になってしまうポーリィン……。思わず引き込まれてしまいます。

また、3姉妹が住むロンドンの描写も魅力的! よく知られる老舗百貨店ハロッズ、ヴィクトリア&アルバート博物館といった名所や、アフタヌーンティー、クリスマスパーティー、郊外でのキャンプなど、イギリスの文化がふんだんに盛り込まれています。

少女たちが困難にぶつかりながらも、周囲の大人たちの温かさに支えられ、自分だけの道を歩み始める成長の物語、ティーカップをかたわらに置いて、イギリスの雰囲気を味わいながら、じっくり楽しんでいただきたい一冊です。

「日々の絵本」月曜担当・H
入社15年目。舞台鑑賞が好きです。子連れで楽しめる作品を中心に月2~3本鑑賞しています。

2019.02.19

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