あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|藤重ヒカルさん『ゴロゴロヤマネコ不動産』

もしも、あなたの町に人間のふりをして、こっそり暮らしている動物がいたとしたら? 1月の新刊『ゴロゴロヤマネコ不動産 なんだかあやしいおすすめ物件』は、人間界にまぎれこんで暮らす動物たちが登場する、ちょっと不思議なお話です。作者の藤重ヒカルさんから届いたのは、なにやら面白そうなインタビュー……?

ヤマネコ不動産の 秘密を追え!

藤重ヒカル


本日は、ヤマネコ不動産の猫山さんにお話をうかがいます。いやあ、やっとお会いできましたね。

「よろしくお願いしばす。ゴロゴロ」

早速ですが、ヤマネコ不動産はどんな会社なのですか?

「私どもは、主にA駅やK駅の商店街を中心に賃貸物件をご紹介させて頂いておりばす。ゴロゴロ」

店舗がご専門?

「はい。商店街って、歩くだけでも楽しいですよね。でも近頃、シャッターを閉めたきりの店が増えていばす。そこで私どもでは、大家さんに新業態のご提案を行ったうえで、それにぴったりの借り手を探し、ご紹介しているのです。
そこにしかない新しいお店ができれば、新しいお客さんがやってきばす。個性豊かな店が並ぶ、にぎわいのある商店街を作るべく、ヤマネコ不動産は日々励んでいるのです」

なるほど……言わば、コンサルという感じ?

「いえ、サルじゃなくてヤマネコ……」

あ、いいです……例えば、どんなお店をご紹介されたんですか?

「それはナイショ」

え? ナイショ?

「守秘義務があるので。でも、この辺の商店街を歩いてみて『いったい何の店だろう?』『なんでこの店、つぶれないんだろう?』と思ったら、ちょっとのぞいてみてください。そこで『おや、何か変だぞ』と思ったら……私どもがご紹介したお店かもしればせんよ。ゴロロ」

変なお店が多いってことですか?

「ま、人間は変に思うかもしればせんね」

え? 〝人間は〟って?

「あっ、いやいや〝普通の人は〟という意味ですよ。ゴロゴロ」

うーん……実は私が今日、猫山さんに取材をお願いしたのは、その辺に理由がありまして……最近この商店街に、何か変な店が増えているような気がするのです。
やけにネコが集まる傘屋、謎の客でにぎわうレストラン、夜中にぼうっと光る町工場……調べてみると、どれもヤマネコ不動産の紹介物件なんです。

「ほほう。よく調べばしたね。たしかにどれも私が自信をもってご紹介し、私どものめざす事を実現した成功物件です」

めざす事とは? まさか、商店街の乗っ取り? 地上げ?? 地面師???

「まさか、まさか。貸す方も借りる方もみんなハッピー! つまり共存共栄の街づくりですよ」

共存共栄?

「そう! この多様性の時代、世代、性別、国籍、あらゆる垣根をこえた時に見えてくる、みんなが幸せを分かち合える理想の街!」

すべての人が幸せを分かち合える街をめざしているという事ですね?

「すべての人? せまい、せまい! すべての生き物がです。まさにイーハトーブのような街! ゴロゴロ」

イーハトーブって、宮沢賢治の?

「そう! さすが、児童文学作家! よくご存じで。(ここで猫山さんは何やらごそごそとポケットから取りだし)ま、おひとつどうぞ」

え? どんぐり? ……あ、『どんぐりと山猫』ってことですね?

「なんですか、それ? ま、うまいですよ。バリボリ」

……
 
驚く私をよそに、猫山さんはどんぐりをほおばりながら、ニヤリと笑いました。

このあと、私は〝何か変な店〟を丹念に取材しました。そしてやっと聞き出せたのが、この本の3つのお話です。どれも意外な事実が……私はこの先も、ヤマネコ不動産を追い続けようと思います。

ではまた!



ふじしげひかる
千葉県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、建築インテリアの仕事に従事するかたわら、飯野和好氏に師事。絵本・童話をかき始める。2017年『日小見不思議草紙』(偕成社)で、第50回日本児童文学者協会新人賞を受賞、ミュンヘン国際児童図書館ホワイト・レイブンズ選定。ほかに『さよなら、おばけ団地』(福音館書店)『不思議屋敷の転校生』『教室に幽霊がいる!?』(以上、金の星社)など。絵本に『まわる おすしやさん』(「こどものとも」2020年1月号)『ばけタクシー』(「こどものとも」2024年2月号)がある。日本児童文学者協会会員。東京都在住。

2025.01.07

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