今、伝えていきたい! 選りすぐりの日本の昔話 各12話 『よりぬき 日本の昔話 ももたろう ほか』『よりぬき 日本の昔話 さるかにかっせん ほか』
『よりぬき 日本の昔話 ももたろう ほか』
『よりぬき 日本の昔話 さるかにかっせん ほか』
みなさんは、幼いころ昔話を読んだとき、心の底からワクワクドキドキしたことはなかったですか?
ストーリーも語り口もとてもシンプルなのに、昔話には子どもたちを強く惹きつける不思議な魅力があります。
現在、日本の昔話集の定本として、『日本の昔話』全五巻(計301話)を刊行していますが、実はこの作品を完成するには、南は沖縄から、北はアイヌ民族に伝わるウエペケレまで、日本全国の優れた昔話10万話を収集し、その中から次の代に残しておきたい珠玉のお話を選別していくという、気の遠くなるような膨大な作業がありました。(たとえば、「ももたろう」のお話も日本中に無数の類話があるのです。)しかも最後は、「昔話本来の語り」をそのままに、日本中のだれもが楽しめる標準語におきかえていくという「翻訳」の難しさもありました。費やされた歳月は、十有余年。刊行されたのは1995年のことでした。
再話は、昔話研究者の小澤俊夫さん。かつてテープレコーダーを片手に、東北地方を中心に日本中の伝承的な語り手の声を聞きとっていかれたそうですが、当時は、遠野の鈴木サツさん、正部家ミヤさん姉妹、新潟の波多野ヨスミさん、笠原政雄さん、福島の遠藤登志子さん……とたくさんの語り手がいらっしゃいました。著者曰く、みなさん「国宝級」の語り手で、ひとりで何百話も語ることができたそうです。
30年前まで、日本には世界でも稀な語りの文化が日常の中にあったというのは本当に驚きです。
このような貴重な語りの文化、喜びは、ずっと後世にも伝えていく必要があります。
そして、このたび、『日本の昔話』全五巻の301話の中からあらためて各12話、計24話を選りすぐった、『よりぬき 日本の昔話 ももたろう ほか』『よりぬき 日本の昔話 さるかにかっせん ほか』の2冊をお届けすることになりました。
選りすぐった昔話は、桃太郎/舌切りすずめ/笠地蔵/かちかち山/こぶ取りじい/三枚のお札/寝太郎/雪おなご/豆と炭とわらの旅/頭の大きな男の話/みるなのくら/ねずみの婿取り(以上、『よりぬき 日本の昔話 ももたろう ほか』に収録)。猿かに合戦/浦島太郎/一寸法師/花咲かじい/にぎりめしころころ/干支のおこり/へっぴり嫁ご/にんじん、ごぼう、だいこん/つる女房/わらしべ長者/馬方やまんば/うばすて山(以上、『よりぬき 日本の昔話 さるかにかっせん ほか』に収録)です。
挿絵は、大島妙子/おくやま ゆか/かなざわ めぐみ/森田晶子/吉田戦車/北村人/伊野孝行/カシワイ/高野文子/たけがみたえ、といった第一線で活躍中の方ばかり。バラエティ豊かな24の昔話世界が生き生きと描かれています。
昔話は、良い「聞き手」がいたから伝承されていったといいます。「語り手」が淡々とした言葉で語る話に、「聞き手」が相槌を打ったり、笑ったり、うなずいたり……、それを受けて「語り手」は物語世界をより楽しく描いていく……。昔話は豊かな「人間関係」のなかで磨かれていったといえます。
昔話は人の成長、生きる道筋、命とは何か、を楽しく象徴的に描いています。ぜひ、昔の人たちが何百年も囲炉裏の前で語っていたのと同じように、まずは声に出して読んであげてみてください。耳から聞くことで、より昔話の世界が動き始めることと思います。
担当S:小澤俊夫さんは、『昔話の語法』という昔話の研究書も執筆されています。ご興味のある方はぜひ!
2025.01.10