あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|とうごうなりささん『あかちゃんの おさんぽえほん みぢかないきもの全3冊』

もうすぐ春。暖かな日差しに誘われて、おでかけしたくなる季節がやってきました。今月の新刊『あかちゃんの おさんぽえほんみぢかないきもの全3冊』は、お散歩で出会える身近な自然が細密で美しい版画と親しみやすい言葉で描かれます。ご自身の子育ての経験から生まれたという本作について、作者のとうごうなりささんにエッセイを綴っていただきました。

赤ちゃんに身近な生き物を見せたい

とうごう なりさ


絵本作家としての活動がようやく少し軌道に乗ってきたころ、娘が生まれました。思うように仕事をこなせない分、娘と一緒にいろんな絵本を読んでみようと、本屋をうろつき、近くの絵本文庫に通いはじめました。赤ちゃんは自分で絵本を選べないので、初めのうちは当然、親の趣味にそった本を手にとることになります。うちは夫婦ともに自然観察が好きなので、自然好きな子に育てたいと生き物の絵本を探しました。

ところが、赤ちゃん絵本のコーナーへ行くと、ゾウやキリン、ライオンなどが出てくるものはたくさんあるのに、身近な自然を扱ったものがほとんどなかったのです。動物園か外国でしか見られない動物より、日々の生活の中で見られる生き物――カラスやスズメ、カエルやヘビなどを知るほうが大切なのではと、たびたび思いました。

子育て最初の怒濤の数年間が終わり、あのころほしいと思った赤ちゃん向けの自然の絵本を作ろうと考えて、まず思い浮かんだ生き物がカラスでした。ベビーカーや抱っこ紐でよく散歩していたのですが、1歳前後の娘が「アー!」と指さして教えてくれる唯一の生き物がカラスだったからです。スズメなどと違って大きく、黒いのでよく見えたのだと思います。餌を食べたり、水浴びしたり、夕方ねぐらに帰って行くカラスを一緒に観察するうちに、ご飯やお風呂といった子どもの日常とも重ね合わせたカラスの1日を描いた絵本を思いつきました。

意気揚々と編集者にラフを見せたところ返ってきたのは「カラスの絵本は人気がないんですよね」「カラスは怖いと思う人が多いので」という言葉でした。でもカラスが人を襲うのはヒナがいる時期に、よほど人間を脅威だと感じた特殊な事情のときだけです。普段からカラスを観察している人ならば、巣の場所や子育ての時期などに気づき注意できるので軋轢が生まれにくいのも事実です。

大人が持っている先入観のために、子どもが、一番身近なおもしろい鳥であるカラスに親しまなくなるのはもったいない。そんな議論を重ねたのちに、手にとってもらいやすくするために、他の生き物の絵本とあわせて3冊セットにしたらどうでしょうと提案されました。

3冊セットにするなら、どれか一つでも好きになってくれるように全く違うタイプのお話にしたい、子どもがふれあえる虫と植物にしたいと思い、1歳半頃の娘と綿毛飛ばしに夢中になったタンポポ、手に乗せて遊んだテントウムシを題材に選びました。

また赤ちゃんと暮らしてみて、「これとこれが同じ!」と分かったときの驚きようや、そうやって覚えたものに愛着を感じていることが印象に残りました。絵本に出てきたのと同じ鳥がコップについているなどと教えてくれ、その鳥を見るたびに喜ぶようになったのです。逆にいえば、何に興味を持つかは、身近にあるもの次第なのです。そう気づいてからは、まだ寝ているだけの時期や絵本をひたすらめくったり破いたりする0歳から、身近な生き物の絵を目にして、そのお話に親しんでほしいと思うようになりました。15センチ角のボードブックという形にこだわったのは、破かれるからと親が絵本をしまい込まずに、赤ちゃんが自由に遊べるものであってほしかったからです。

お散歩デビューする前からこれらの赤ちゃん絵本を読んで身近な生き物に親しんでくれたら、そして外で本物の生き物を見つけた時に、その二つを結びつけてくれたら、自然を楽しむ良い一歩を踏み出せるのではと願って、このシリーズを作りました。



とうごうなりさ●1987年生まれ。東京農工大学地域生態システム学科を卒業後、イギリスのケンブリッジ・スクール・オブ・アートで絵本や児童書の挿絵を学ぶ。2019年ボローニャ国際絵本原画展入選。絵本に『じょやのかね』『さくらがさくと』『ハクセキレイの よる』(ちいさなかがくのとも/すべて福音館書店)、『はばたけ!バンのおにいちゃん』(出版ワークス)など、挿絵に『Magnificent Birds』(英 Walker Studio)、『はりねずみともぐらのふうせんりょこう』(福音館書店)がある。

2024.03.05

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