日々の絵本と読みもの

生きるよろこび~心が温かくなる動物ファンタジー『赤いめんどり』

赤いめんどり
イギリスは動物ファンタジーの宝庫です。これまで「ピーターラビットの絵本」をはじめ、さまざまな物語がイギリスの田園を背景に描かれてきました。
幼年童話『赤いめんどり』も同じように自然豊かなイギリスの農村部を舞台に、ささやかな生きるよろこびを綴っていった物語です。

ひとりぼっちのおばあさんのところにやってきた1匹のめんどり。やせこけた、みすぼらしいめんどりでしたが、実は不思議なめんどりでした。ある朝、おばあさんが目をさますと、びっくり。暖炉では火が燃え、台所はそうじしてあり、テーブルには朝ごはんがならんでいたのです!
それからというもの、めんどりは、おばあさんの針仕事を手伝ったり、お料理をしたり、いっしょにお散歩をしたり……。
さびしかったおばあさんの毎日は、めんどりのおかげで光り輝いていきます。
ふたりは言葉をかわすことはできませんでしたが、やさしくて働きもののふたりの心は、しだいに通じ合っていくのでした。


そうしたなか、大きな事件がおきます……。
はたして、めんどりの正体とは……??

物語には、ユーモアあり、スリルあり、ぐいぐいと引っ張っていく力強さがあります。そして、読み終わると、心の中がぽかぽかと温かくなってくるファンタジーです。

作者のアリソン・アトリーは、1884年にイギリスのダービシャー州クロムフォードの古い農場で生まれ育ちました。広い野原や森で小動物とともに過ごした少女時代の経験をもとに、「グレイ・ラビット」シリーズや、「チム・ラビット」シリーズ、昔話やマザーグースの歌をエッセンスにした「おめでたこぶた」シリーズや、『クリスマスのりんご』、『はりねずみともぐらのふうせんりょこう』など、多くの物語、エッセイを残しています。

絵は山内ふじ江さん。アトリーはめんどりを自然に生き生きと無理なく擬人化していますが、山内さんの絵の世界も、実際のめんどりの顔つきや振る舞いを参考にしながら丁寧に描かれていて見事に擬人化されています。
自然や小動物など、身近なものが「主人公」のアトリーの童話は、これから本格的なファンタジーを楽しもうとする幼い子どもたちにとってその入り口になる作品でしょう。

同じ山内ふじ江さんが描いたイギリスの作品に、『黒ねこのおきゃくさま』(ルーズ・エインズワース作)があります。こちらは、1匹のやせこけた黒ねこと貧しいおじいさんとの不思議な出会いと別れを描いた作品です。どうぞ合わせてお楽しみください。

担当S 子どものみならず、おとなの方にも読んでもらいたい作品です。

2023.12.08

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