作者のことば

【絵本作家デビュー50周年】特別インタビュー|佐々木マキさん「まじょシリーズ」から『やっぱり おおかみ』まで

『やっぱり おおかみ』で絵本作家としてデビューして以来、50年にわたって、ユーモアあふれる作品を生み出し続けてきた佐々木マキさん。新刊『まじょの すいぞくかん』を中心に、その創作の源を教えていただきました。どうやら佐々木マキさんの絵本のなかには、少年時代から好きだったものが、たくさん詰まっているようですよ。

『まじょの かんづめ』が生まれるまで


――『まじょの すいぞくかん』のハードカバー版が今年9月に刊行されました。こちらは『まじょの かんづめ』の姉妹作ですが、まず『まじょの かんづめ』がどのようにして生まれたのか、教えていただけますか?

僕は缶詰というものに愛着があって、子どものときから食べ物が不自由だったこともあり、「おいしいものが入っている」という形がまず好きなんです。

それから、よくみんなで裏山に登ったんですけれども、飯盒炊爨(はんごうすいさん)するときに、僕はちっちゃかったから「お前は缶詰を開ける役目をしなさい」みたいなことを大きい子に言われて。

最初は手が痛かったりとかしたんですけど、てこの原理を利用したらすごく楽に開くことがある日分かって、それから缶詰を開けるのがだんだん得意になっていきました。あの、固い金属が柔らかい金属に食い込む感じが、何とも言えず好きで。

このごろは――というより、この絵本を書いた1994年当時すでに、缶切りを使う機会は減っていってましたけど。

――「かんづめ」と「まじょ」という組み合わせは、どのようにして思いつかれたのでしょうか?

魔女がいろんな動物を缶詰にして、手元に置いておくっていうのが面白いかなと思って。それと、やっぱり普通の人が出てくる絵本というのは、あんまり得意じゃないというか。いるのかいないのか分からない、そういう変な人たちの方が、絵を描いていても魅力的だし、好きなんです。魔女に限らず悪魔とか、泥棒とかね。


――この絵本に登場する魔女は、バーゲンセールに行って紙袋をさげて帰ってくる、現代的なところがユニークですね。

魔女の性格として、本質的におばちゃんですから、買い物が好きなんですね。バーゲンとか安売りのダイレクトメールが来たら、すぐ目の色が変わってしまう。絵的に言っても、魔女がほうきに乗って飛んでいるだけではあんまり面白くないんで、何かおばちゃんらしいものを持たせたいなって。

――ダイレクトメールと言えば、物語の冒頭に登場する変な彫刻が、実は魔女によって姿を変えられた郵便屋さんだった……という展開も伏線が効いています。

郵便配達屋さんって大好きなんですよ。ものすごい雨の日でも、合羽かぶって赤いオートバイに乗って、60円いくらの郵便を配っているっていうのを、ものすごく尊敬しているんで、郵便屋さんはどうしても出したかったんですね。

でも、どこへでも行かないといけない仕事なんで、気の毒な目に(笑)。
 

続編『まじょの すいぞくかん』

――姉妹作の『まじょの すいぞくかん』では、どうして水族館を舞台にしたのですか?

水族館はわりに親しみがありまして。というのは、小学校5年生だった1957年ごろに、自分の育った町の、何もない海辺の荒れ地に、基礎工事みたいなのが始まって、僕らはよく、その空き地で草野球みたいなことをやってたもんですから、そこに何かが建ちそうだっていうんで、自転車に乗って様子をよく偵察しに行ってたんですね。それが神戸市立須磨水族館だったんです。

――水族館のどういうところがお好きだったんですか?

非日常感ですね。だいたい水族館って、通路が暗いんですよね。水槽のなかだけ見えるように灯りが点いていて、ほかは薄暗くて。テレビのブラウン管だけが並んでいるみたいな、そういう不思議な空間で、まずそれ自体が好きだったんですね。ヒッチコックの昔の映画で、水族館でスパイ同士が接触して情報交換するとか、そういう場面があったように思うんですけど、なかなかミステリアスでいいなあと。

――この絵本では、動物たちが魔女によって魚に変えられてしまいますが、その造形が絶妙ですね。

森の動物を魚にするのはなかなか難しかったです。単に魚になるだけだとあんまり面白くないんで、元の動物の特徴が残るように、結構考えたような気がします。

――名前も「チョウチンクマアンコウ」「ブタフグモドキ」などと、おかしな命名がされていますね。

水族館でも動物園でも、学名とかいろいろ説明がついてますよね。水族館ですから、なんとかそれらしくしなきゃと。


――言葉の響きの面白さと言えば、魔女の唱える呪文も印象的です。「ラプンテ ラプンテ ポッシノタブー コボマカ!」という呪文は、どうやって思い付いたのですか?

これは当時、小学生くらいの娘が考えた言葉です。ただの逆さ言葉なんですけど、「ラプンテ」っていうのがラプンツェルみたいで、ちょっと異国的でいいなと。

――主人公と女の子と犬には名前がついていませんが、実はキノコとイワンという名前だったことが、3作目『まじょの ふるどうぐや』(「こどものとも」2003年5月号/現在は品切れ)で明かされます。彼らの名前には何か由来があるのでしょうか?

もし女の子に名前を付けるとしたら、キノコという名前はだいぶ前から使いたかったんですね。でも1980年頃から「Dr.スランプ」という漫画の脇役で、三輪車に乗っているくせにテクノカットにした、キノコという生意気な女の子が出てきて、「あ、先にやられた」と。「使いたかったなあ」とはずっと思ってたんですけど、ずいぶん経ったから、もういいかなと。

犬のイワンの方は、イヌのワンちゃんで「イワン」。それはものすごく安易です(笑)。

デビュー作『やっぱり おおかみ』について

――最後に、佐々木マキさんの絵本デビュー作『やっぱり おおかみ』についてもお伺いさせてください。『まじょの すいぞくかん』が単行本化された今年は、『やっぱり おおかみ』が刊行されてからちょうど50年という節目でもあります。これほど長く読者の方に愛されてきたことについて、今のお気持ちはいかがですか?

一言でいうと意外ですね。こんなに無愛想な、可愛げのないキャラクターが、忘れ去られずに残っていたということが。そんなに何十年もみなさんに、図書館で借りてくださったり、書店でレジに持って行ってくださったりする行動力を喚起したというのは、ものすごく不思議な気がします。

――この孤独なオオカミのキャラクターには、当時のマキさんご自身のお気持ちも投影されていたのでしょうか?

当然そうですね。昔は自分のことばっかり考えてましたから。


――でも、そんなオオカミの姿に、「これは自分のことが書かれている」と感じる方も多いのではないかと思います。

一人一人、そう思う方がいらっしゃるんでしょうね。そういう意味では、少しは一般性があったのかなと、今頃になって思います。

2023.10.27

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