作者のことば さとうわきこさん『あめのち ゆうやけ せんたくかあちゃん』
今月刊行した、人気作「せんたくかあちゃん」シリーズの第3作『あめのち ゆうやけ せんたくかあちゃん』(ハードカバー版)。3月に亡くなられた作者のさとうわきこさんが、初出「こどものとも」2013年4月号の折り込み付録に寄せてくださったエッセイを再録して、お届けします。
そらいろのつぶやき
さとうわきこ
子どもの頃、父の持っていた本の中に野尻抱影(のじりほうえい)という人の本があって、父と姉はその本を見ながらよく、星座の話をしていた。そして家の屋根に梯子をかけて登り二人で空を指さしながら、あれが○○座とか、あの輝いているのは何等星だとかいっていた。私はちんぷんかんぷんで、梯子を登るだけでもせいいっぱい。しかも登っては母親にひきずりおろされた思い出がある。
いまも私は星の名前も星座もなかなか覚えられない。けれど星を見るのは好きだ。ある時、八ヶ岳のふもとにある公園に友達と出かけた。流れ星が流れる日だったからだ。公園のコンクリートにすわって空を見ていたら、首が痛くなったので、寝ころがってしまった。するとなんだか広い広い宇宙に浮かんでいるようだった。天の川が南から北へ、白くはっきりと流れ、無数の星でいっぱい。星は流れては消え、流れては消えていった。なんとも不思議な空中遊泳の時間を味わえたけれど、身体は夏だというのに、すっかり冷えてしまった。
ところで、あの天の川があふれることもあるのだろうか。近頃の異常な天気なら、天の川も川なのだから、そういうこともあるかもしれない。そうしたらどうなる? と思ったことが、この絵本が生まれたひとつのきっかけなのだった。ちなみに今回、せんたくかあちゃんは、なぜ川でせんたくしようと思ったか? この本のトビラにヒントがある。そして川に出かけ、思わぬことがおこり、月と星は思いがけなく美しいかたちで空へ帰ったのでありました。メデタシメデタシです。
さとうわきこ 東京に生まれる。絵本に『あめふり』『やまのぼり』『よもぎだんご』などの「ばばばあちゃんの絵本」シリーズ、『せんたくかあちゃん』『くもりのちはれ せんたくかあちゃん』などの「せんたくかあちゃん」シリーズ、『おつかい』『るすばん』(以上福音館書店)などがある。岡谷市と八ヶ岳で「小さな絵本美術館」を主宰。2024年3月没。
2024.05.13