特別エッセイ|兼森理恵さん「やあ、ピクルス!」〜『ピクルスとともだち』刊行によせて〜
こぶたのピクルスは小学生のやんちゃな男の子。毎日が失敗の連続です。はじめて学校に行く日も「大きな忘れ物」をしてしまいますし(第1巻『こぶたのピクルス』)、ふたごの妹、ムギとコムギがうまれたときもお兄さんとして何をしたらいいのかチンプンカンプン……(第2巻『ピクルスとふたごのいもうと』)。このような日々の失敗をものともせず、わからんちんのピクルスがあっけらかんと成長していくのが、「こぶたのピクルス」シリーズです。
このたび、第3巻『ピクルスとともだち』の刊行を機に、刊行以来ずっとあたたかいエールをピクルスに送ってくださっている書店員の兼森理恵さんが、作品への思い、幼年童話への思いを綴ってくださいました。
やあ、ピクルス!
兼森理恵
なんと、約七年振りの再会だ。思い出すのは出会った頃こと。忘れ物をしないように「わすれ物は、ひとつもなし!」と声に出して元気に歩いていったり(けれども忘れてしまうのだ)、海水浴が待ちきれなくて夜中にお部屋の中で「まげてー のばす! まげてー のばす!」と泳ぎの猛練習に無邪気に励んだり。何気ない日常の中でのピクルスのキラキラした「はじめて」をたくさん見せてもらった。そして双子の妹が生まれてからのピクルスには、その素直さと優しさにぐっと成長を感じて本当にうれしかった。ページを開くたびに、毎日を健やかに楽しんで暮らしているピクルスを見つけると、なんだか元気をもらえるのだ。
久しぶりに会ったピクルスは、相変わらず、たくさんのわくわくと小さな冒険に満ち溢れた毎日を過ごしているようで、元気だったんだなとホッとする。なんと、親友までできたらしい。お友だちとの出会いにより家族とはまた違う繋がりを得て、彼の世界はますます広がり、どこかうんと遠くに駆けていってしまいそうだ。なんだかたくましくなったなあとちょっとさみしくもあるが、変わらず愛らしいこぶたなんだよなあ、ピクルスって!やっぱり大好きだ。
様々な初めてを体験していく子どもたちにとって、幼年童話の存在は大きい。一人読みができるようになり、物語にぐいぐい入っていけるようになった頃から、私の世界は大きく広がった。知らない場所も、本の主人公と一緒なら怖くなかった。次はどこに行こう。あの子はどこに連れて行ってくれるのかな?そう考えると、次々と本に手がのびるのだった。いろいろなことを予行練習できたおかげで、現実世界に活かされたことも多かった気がする。私という人間の基礎をしっかりと形成し、人生を豊かにしてくれたのは、間違いなく幼年童話だ。
この物語に出会えた子どもたちは、幸福だ。ピクルスと一緒に「いっせいの、せっ」で世界に飛び出し、元気いっぱいに遊び、時には失敗してもめげずに前にすすむ。知らない小道を覗き込んで冒険してみる。そんな風に、ピクルスと経験を積んでいるから、未知の世界にも臆すること無く飛び込んでいけるに違いない。
ピクルスとも、もうずいぶん長い付き合いになった。これから出会う子どもたちには、ぜひピクルスと物語の中で、よく遊び、よく笑い、生きること楽しんでほしい。そして大きくなっても、たまにはピクルスに会いにいくといい。「やあ、ピクルス!」そう声をかけたら、一緒に成長した相棒は変わらず待っていてくれるはず。そしてそこの横には、間違いなく笑顔の自分がいるはずだ。自分の中にそういった場所があるのは、本当に心強い。この先私も、まだまだ遊びにいくんだろうな。
兼森理恵(かなもりりえ)
1976年東京都生まれ。99年ジュンク堂書店入社。池袋本店、新宿店を経て、丸善丸の内本店勤務。児童書ジャンルアドバイザー統括チーフ、EHONS商品開発などを担う。
書店業の傍ら、児童書レーベル「らいおんbooks」で出版にも携わる。
2023.05.26