作者のことば 岡本雄司さん『くるまにのって』
ローカル線や新幹線を乗り継いで電車旅を味わえる乗り物絵本『でんしゃに のったよ』で、電車や乗り物好きの子どもたちの心をグッとつかんだ岡本雄司さん。
今作は、主人公しょうちゃんがお父さん・お母さんと車にのっておでかけです。おばあちゃんの家へ向かう途中、工事車両やトラックなどたくさんの車に出合います。リアリティーがありつつもどこかミニチュア模型を思わせるような温かさと親しみがある作品です。
今回ハードカバー化されるのに際し、月刊絵本刊行時の「作者のことば」をお届けいたします。
二つの記憶を重ね合わせて
岡本雄司
子どもの頃、幼なじみの友達とプラレールやミニカーでよく遊びました。おもちゃの乗り物で遊ぶことは、実物の電車や車に乗ることとは全く別の魅力がありますよね。この絵本を制作した当時、2歳ぐらいだった息子は、家では毎日のように木製レールの電車のおもちゃで遊んでいました。そして、さいたま市にある鉄道博物館に連れて行くと、鉄道模型のジオラマに釘付けになっていました。
乗り物のおもちゃを自分で自由に走らせることと、精巧につくられた風景の中を鉄道模型が行き交うのを見るのは、一見違うことのように感じます。しかし、大好きな乗り物たちが「自分の視野に収まる小さな世界」に存在しているということが、それぞれに共通する大きな魅力なんだと思います。
私は20代の頃から、日本各地いろんなところに車で旅行に行くようになりました。家が山にへばりつくように連なっている尾道の街や、色とりどりのトタン屋根が並ぶ足尾の街。半分海に浸かっているような家が隙間なく並ぶ伊根の風景や、強風に耐えているように見えた能登の漁村。そういった特徴のある街並みが、長い運転の終点として見えて来た時の喜びは、今もよく覚えています。目的地までの風景はたとえ平凡であったとしても、道路標識に書かれた見知らぬ地名や、風景の端に時々見え隠れするローカル線が、十分旅の気分にさせてくれました。
今回、小さな世界の中で電車や車を動かして遊んだ子どもの頃の記憶と、大人になってから旅先で見て来た風景を重ね合わせて、一つの絵本をつくりました。
車中で食べるパンを買ったり、河原で休憩したりと、親子で想像をふくらませながら、絵本の中でいっぱい寄り道してくれると嬉しいです。
※2014年5月号当時の折り込みふろくの「作者のことば」に一部加筆・修正しました。)
岡本雄司
神奈川県生まれ。画家、絵本作家。主に木版画や貼り絵の技法を用いて、旅先で見る風景や乗り物をテーマにした作品を発表している。版画本『電車よこぎる街』『地下鉄出口帖』『辻堂駅』『終点まで』(いずれも私家版)、四ツ谷駅全景の版画作品「四ツ谷駅」(JR四ツ谷駅構内展示2007-2011)を制作。絵本に『でんしゃにのったよ』『れっしゃが とおります』(「かがくのとも」2017年8月号)『でんしゃ すきなのどーれ』(「こどものとも年少版」2021年12月号、以上福音館書店)『いろんなでんしゃ はっしゃしまーす』(アリス館)がある。埼玉県在住。
2023.04.12