今月の新刊エッセイ|ほそかわてんてんさん『がっこうのてんこちゃん』
3月、新入学を控えた季節となりました。4月から小学校に通いはじめるという子どもたちもたくさんいると思います。はじめての学校、楽しみに思う気持ちもあれば、同じくらい不安やドキドキもあるのではないでしょうか。今月の新刊『がっこうのてんこちゃん』は、そんな子どもたちに寄り添うお話が全部で5話入った本です。子どもの頃、学校が嫌いだったという、作者のほそかわてんてんさんが、作品に込めた思いについて、エッセイを綴ってくれました。
こんな学校だったら 良かったな
ほそかわてんてん
私は学校が大嫌いでした。すでに幼稚園時代から絶望していました。どうして絶望していたかというと、私の問いに大人は誰も答えてくれなかったからです。その問いとは「どうして幼稚園に行かなくてはいけないのか? 幼稚園ではどうして時間通りに決まったことをしなくちゃいけないのか?」でした。
私がそういう質問をすると大人は「文句の多い子だ」「へりくつばかり言ってるかわいくない子だ」と言って嫌がりました。しつこく聞くと「うるさい」と言って怒りました。
私は自分が納得できないことはしたくない子でした。だから納得できないのに無理やり幼稚園に行けと言われてたので登園拒否をしました。幼稚園は大嫌いでした。でもその後何年も「学校」というところに通わなくてはいけないとわかって本当に本当に絶望しました。
やっぱり私は「どうして学校に行かなくてはいけないのか?」の理由を知りたかったのですが、その質問すらしてはいけない感じでした。「学校は何が何でも絶対に行かなくてはいけないところ」でした。もう理由を教えてくれとか納得したいとか言ってはいけない感じでした。
学校で私は怒られ続けました。
「ちゃんと他の子と同じことをしなさい。どうしてあなたはみんなと同じように出来ないの?」と叱られました。「ほかの子と違うことをする」ということでたくさん怒られました。
学校はみんな同じ方向を見て同じことをして同じように成長していくところだと大人たちは言いました。だから落ちこぼれてはいけないと言いました。
私はそういうのが嫌でたまらなかったです。
なので私は、自分が「こんな学校だったらいいな」と思う学校の話を書きたいと思いました。
楽しく自分らしく生活できて、考えてることも、物事の受け止め方もみんな違ってもいいよっていってもらえる安心できる場所。
最初から「みんな同じ」を目指すのではなく「ひとりひとり違う」からはじめてみたら、みんなが自由でいられるから楽でいられるし、私はこう思ってるけど他の子はどう思ってるんだろう? って余裕が生まれてくるような気がします。
私は学校がそういう場所になっていったら良いなって思います。ひとりひとりが自分らしく生きられて、相手のことを尊重できるようになってたら、そして相手からも尊重してもらえるようになっていたら、子どもたちは自分を大事にできるようになると思います。
子どもたちが自分のことを大事に思えたら他の子のことも大事に思うようになります。
そういう社会になっていったら良いなという思いを込めてこの作品を書きました。
ほそかわてんてん
1969年埼玉県生まれ。漫画家・イラストレーター。パートナーの闘病を描いたコミックエッセイ『ツレがうつになりまして。』(幻冬舎)が話題になり、映画化、ドラマ化される。ほかの著書に自身の介護をつづった『親が子どもになるころに』、水島広子医師との共著「それでいい。」シリーズ(以上、創元社)、『生きづらいでしたか?』(平凡社)など多数。児童書の挿絵に『ていでんちゅういほう』(文・いとうみく/文研出版)、『プリプリプリン姫』(文・吉田純子/ポプラ社)など。宝塚市在住。
2023.03.03