作者のことば

作者のことば 富安陽子さん『まゆとおおきなケーキ』

累計30万部以上刊行している「やまんばのむすめ まゆ」シリーズ。子どもたちを惹きつける魅力は、なんといっても主人公のまゆ。やまんばの娘で、力持ちで好奇心旺盛な女の子です。鬼や妖怪、伝説の生き物など、さまざまな登場人物たちと元気いっぱいに自然の中を駆け回ります。
待望の新刊は『まゆとおおきなケーキ』、2009年に月刊絵本として刊行され人気だった作品です。待望のハードカバー化を記念して、月刊絵本刊行時の折り込みふろくに掲載された「作者のことば」をお届けします。

憧れの大きな食べもの

富安陽子さん

「やまんばのむすめ まゆ」の物語も五冊目となりました。今回は、まゆが、春のパーティーのために、大きな大きな、特大級のケーキを焼くお話です。
やまんばかあさんとまゆの絵本は、もともと『やまんば山のモッコたち』(福音館書店刊)という長編童話がベースにあって生まれたシリーズです。今回のケーキづくりのエピソードは、その童話の中にも出てくるのですが、こうして絵本になってみると、絵に描いてもらって楽しむのにぴったりの題材だったなと思います。
降矢さんの描くまゆは、今回も、元気いっぱいで、イキイキとして愛らしく、ふくらんでくるケーキは、こんがりとおいしそうで、焼き上がった時には、その大きさとふかふかの質感に思わず圧倒されます。
こんな山みたいな、ふっかふかのケーキに、とびのって、かじりついて、もぐりこんで、お腹いっぱいになるまで、食べつくすことができたらきっと幸せだろうなぁ……と思わずにはいられません。
私は小さい頃、大きな食べものに、憧れを抱いていました。七五三の時にもらう、長い長い千歳飴も大好きだったし、父が出張の折時々お土産に買ってきてくれるナベ敷ほどの大きさのおまんじゅうや、外国の知人が送ってくれたノートより大きいチョコレート……。
サイズが大きい、というだけで、その食べものは輝きを増し、私の心を惹きつけるのでした。そんな憧れの頂点にあったのが、ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家です。ああ、そんな家に住めたら……いや、一目見ることができれば……と幼い私は思い続けておりました。
まゆが焼く、でっかいでっかいケーキには、私の小さい頃の夢が詰まっています。みなさんもどうぞ、まゆのでかでかケーキを、心ゆくまで楽しんでください。

(「こどものとも」2009年4月号 折り込みふろくより)

富安陽子

1959年、東京生まれ。高校在学中より童話を書きはじめた。絵本の文の仕事に「やまんばのむすめ まゆのおはなし」シリーズ・「オニのサラリーマン」シリーズ(ともに福音館書店)、『さくらの谷』(偕成社)など。童話に『やまんば山のモッコたち』「菜の子先生」シリーズ・「菜の子ちゃん」シリーズ(以上、福音館書店)、『クヌギ林のザワザワ荘』(あかね書房)、『盆まねき』『絵物語古事記』(ともに偕成社)、「ムジナ探偵局」シリーズ(童心社)、「シノダ!」シリーズ(偕成社)、「内科・オバケ科 ホオズキ医院」シリーズ(ポプラ社)、「やまんばあさん」シリーズ・「妖怪一家九十九さん」シリーズ(以上理論社)など多数。

2023.03.03

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事