斬新なテーマに取り組んだ意欲作『やっぱり おおかみ』
『やっぱり おおかみ』
どこかに だれか いないかな
ひとりぽっちのおおかみは、なかまをさがして、うさぎ、やぎ、ぶた、しかなど、動物たちが暮らす町や市場や遊園地をうろつきます。でも、どこへ行っても、自分と同じなかまには出会えません。
みんな なかまが いるから いいな
すごく にぎやかで たのしそうだ
おおかみが、なかまがほしくて近づいても、自分の姿を見ると逃げていくうさぎやぶた。そんなとき、おおかみの放つ「け」という一言は印象的で、子どもたちの心にもぐっとくるようです。他者を拒否する気持ちと裏腹に、憧れや負け惜しみといった、さまざまな感情が込められているように感じます。
うしの家族が暖かい家のなかで食事をしている光景を、おおかみは窓の外からそっと眺めます。おおかみに目は描かれていません。それなのに、空虚に開いた口元、黒く塗りつぶされたシルエットから、おおかみの強がりや寂しさが痛いほど伝わってきます。
目が描かれないことで、かえって読み手の想像がふくらむのかもしれません。
赤い気球を見ながらおおかみは思います。
やっぱり おれは おおかみだもんな
おおかみとして いきるしかないよ
最後の場面、おおかみが眺めた景色はどんなものだったのでしょう。
寂しさを滲ませつつ、どこかすがすがしくもあり、おおかみの決意のようなものを感じさせます。
今までの絵本にない、斬新なテーマに取り組んだ意欲作として評価の高い本作ですが、作者は佐々木マキさんです。1966年に雑誌「ガロ」(青林堂)でマンガ家としてデビュー、自由で実験的なマンガを発表されるなかで、初めて手掛けられた絵本が『やっぱり おおかみ』でした。今から50年近く前の1973年、月刊絵本「こどものとも」で刊行されました。
佐々木マキさんの自伝的エッセイ集『ノー・シューズ』(亜紀書房)には、当時、福音館書店内では、「こういう絵本があってもいい」派と「こういう絵本は困る」派に分かれた、と書かれています。
新しい絵本の世界が多様にひろがっていく時代を感じさせるエピソードですね。
担当M 『やっぱり おおかみ』を読むと、これは自分のことだ、と思う人が私の知り合いにも何人かいます。エッセイ集『ノー・シューズ』には、佐々木マキさんの若かりし頃、絵本を描くまでの当時のことなど詳しく書かれています。興味を持たれた方は、ぜひこちらも読んでみてくださいね。
2021.11.03