家族と眺める電車『でんしゃが きた!』石橋真樹子さん
電車に乗った時に窓の外を見ていると、子どもたちが楽しそうに電車を眺めている姿をよく見かけます。11月新刊の『でんしゃが きた!』は、そんな子どもたちの気持ちに寄り添うように、石橋真樹子さんが「電車を見る楽しさ、喜び」を画面いっぱい、迫力たっぷりに描いてくれた一冊です。ご自身も子育てをしながら絵本づくりをされた石橋さんの、2013年に月刊絵本「ちいさなかがくのとも」で刊行された当時の折り込みふろくから、「作者のことば」をお届けいたします。
家族と眺める電車 『でんしゃが きた!』
石橋真樹子
結婚して、子どもを育てるようになり、すべてが自問自答で成り立っていた長い一人暮らしから、日々の生活に色々な変化がありました。特に、喜怒哀楽を家族と分かち合うようになったことです。そうしていると、祖母、両親、弟と暮らしていた自らの子ども時代へと戻っていく感覚があります。
独身時代の私にとって、電車は単に「乗って楽しむもの」でした。しかし、動くものに興味を示すようになった五ヶ月の息子を抱っこして近所の線路沿いを散歩するうちに「見ても楽しいもの」と思うようになりました。ゆっくり電車を眺めると、「電車の上についているのは何だろう?」「線路の敷石って、年季が入った色をしているなあ」など様々な発見がありました。息子につられて、踏切や駅の近辺など電車がよく見える場所を探すようにもなりました。
今回、神奈川県松田町のあたりが舞台となっています。夫と息子と三人で町内を歩き、いろいろな場所で電車を楽しみました。鉄橋は早朝、昼、夜で、まるで違う電車の風景を見せてくれました。また、路地に迷い込むと頭上を電車が走る小さなトンネルがあり、下から見ると迫力満点でした。ガタゴンゴーッという音を聞いた途端、四歳の記憶が蘇りました。住んでいた家の近くにも、こんな場所があったこと。トンネルの壁はサビで茶色くなっていて、手前の土手にはユキヤナギの花が咲いていたこと。トンネルの真下で電車の大きな音を聞くのが怖くて、小さくカタンコトンと電車の音が聞こえると、母の手をひっぱって急いで通り過ぎたこと。でも、電車が来なければ来ないで何だか拍子ぬけな気分になったこと。
息子は頭の上を通り過ぎていく電車には無関心で、大きな音にも驚いていませんでした。もう少し大きくなったとき、この小さなトンネルを喜ぶのだろうか、それとも私のように怖がるだろうか。夫とそんな話をしながら三人で電車を眺め、家族との生活を大切にかみしめるのでした。
石橋真樹子
1970年、東京都に生まれる。女子美術大学デザイン科卒業。絵本に『カマキリのかんちゃん』(「こどものとも」)『はいしゃへいくひ』(「こどものとも年中向き」)『フェリーターミナルの いちにち』『うみべの ごちそう』『クモを みつけよう』(いずれも「かがくのとも」)『のぼれ! ケーブルカー』『くるまの なかには?』(いずれも「ちいさなかがくのとも」/以上、福音館書店)などがある。
2022.11.01