あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|杉田比呂美さん『みちとなつ』

6月の新刊『みちとなつ』は、住む場所も性格も違うふたりの少女が友だちになるまでを描いた、爽やかな出会いの物語。広い世界のなかで、出会いのきっかけは色々なところにあるんだ、ということを感じられる一冊です。あのねエッセイでは、作者の杉田比呂美さんが、ご自身の体験も交えながら、友だち付き合いや、友だちと出会うことについて、語ってくださいました。

友達との出会い方

杉田比呂美



友達という言葉を辞書で引いてみました。「ともだち~対等の立場で親しくつきあっている人。」損得を考えず、気負いせず、一緒に楽しく過ごせる関係だと思います。

今回の絵本『みちとなつ』は、まだ見ぬ二人が出会い、友達になるまでを描いています。まったく別々の場所に住み、性格も違う者同士が、ふとしたきっかけでお互いの好きな物に興味を持ち、打ちとけ合う、こんな偶然は、小さな子たちに限らず、大人でも、そう起きる事ではないかもしれません。でも、日々のあわただしさの中でつい忘れがちなのが、学校や職場、親同士のつき合いなど、今いる環境がすべてではない、ということです。

知り合った時からなんだか気が合って、友達になっていく過程は不思議です。さまざまな場所で出会い、すれ違っていく中で、なんとなく心がかたむいていき、次にまた会いたくなって約束したり、一緒に行動したいなと思ったり。

私自身、友達は決して多くはありません。ぼんやりしていて、つかみどころない人に思われている気がします。見当違いな意見を言ってしまい、ぽかんとされる事もありましたし、その言動のせいで、相手をイラッとさせてしまう事もありました。今思うと、学生時代は、私もどこか無理をして友達づきあいをしていた所がありました。大人になり、絵を描く仕事についてから、ちょっとずれた私の言動も、面白がってくれる人がいて、新しい扉が開いた気持ちになりました。環境が変わると、人の見方も変わり、違った展開もあるのだな、と思います。

もし今、友達づきあいに窮屈さを感じているなら、一人の時間を大切にしてはどうでしょうか。好きな本を読んだり、映画を観たり、ゲームを楽しんだり、身体を動かしたり。興味の持てる事を積み重ねていくのも良いかもしれません。

ずいぶん前の話ですが、洞窟好きがこうじて洞窟探検サークルに参加した事がありました。年下の若い人達に交じって、ヘルメットにヘッドライトを付け、頭がやっと入る穴をくぐり抜け、冷たい水を泳いで進んで行くという、かなりアグレッシブな体験をしました。まわりのメンバーにとっては、年上の変な人が参加している感じだったでしょう。残念ながら、そこから友達はできませんでしたが、今、その事をおもしろおかしく話すことが出来るようになっています。

友達との出会いは、水の流れのように、偶然の積み重ねです。流れる水は、何かにぶつかり、分かれてしまう事があるかもしれません。でも、流れて行けば、一度分かれた水の流れとどこかでまた出会って一緒になったり、あるいは別の新しい流れと合わさったりして、ふたたび大きく流れ出すものです。友達との出会いも、そんな自然な流れのように、とらえられるといいですね。



杉田比呂美(すぎた・ひろみ)
東京都生まれ。イラストレーター。本の装画や挿絵を数多く手がける。福音館書店の絵本に『てのひらおんどけい』(浜口哲一 文)、『ダーウィンのミミズの研究』(新妻昭夫 文)、『ボートにのろうよ』(ちいさなかがくのとも2020年10月号)がある。そのほかの絵本に『12にんのいちにち』(あすなろ書房)『ゆうだちのまち』(アリス館)『ひとりぼっちのくうくう』(小峰書店)などがある。

2021.06.01

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