日々の絵本と読みもの

友だちの新しいカバンがうらやましくて…… 『チェクポ おばあちゃんがくれた たいせつなつつみ』

友だちの持ち物がうらやましかったこと、ありませんか? 

『チェクポ  おばあちゃんがくれた たいせつなつつみ』

『チェクポ』は、韓国の絵本です。お話の主人公はオギという女の子。
ある朝、オギは学校へ出かけるしたくをしています。持っていくのは教科書とお弁当。チェクポという、端切れを縫い合わせた風呂敷のような布を広げ、教科書は中に包むのですが、お弁当のふたを開けると、「またキムチべんとうか!」。お弁当はわざと家に置いて出かけます。すぐにお母さんが気づき、「おべんとう、もっていきなさい!」と追いかけてきます。「いやだ! もっていかない!」と、何だかオギは朝から不機嫌そうです。

その理由はすぐにわかります。
「かばんも かってくれないくせに……」「ダヒはあたらしいかばん、かってもらったんだよ!」。
不機嫌の理由はどうやらカバンだったようです。そこへ現れたのが、友だちのダヒ。新しいカバンを自慢気にしょって「かわいいでしょ?」と見せてきます。ダヒのカバンがうらやましいオギは、こうしてふくれっ面のまま、学校へ行ったのでした。

学校についてからも、授業の間も、オギの頭の中にあるのはカバンのこと。休み時間、ついうらやましくて、ダヒのカバンに手をふれていると、「やめてよ!」とダヒがとんできます。そのきつい言い方に、オギは友だちのダヒのことまで憎たらしく思います。

家への帰り道、ダヒに自分のチェクポをからかわれたオギは、くやしくて走り出すのですが、勢いでチェクポを留めていたピンが外れて持ち物が散らばってしまいます。くやしさとみじめさと憎たらしさと、いろんな思いが一緒になって、オギは感情をダヒにぶつけます。

ダヒだって負けていません。「なんで あたしに おこるのよ? あんたも かってもらえばいいじゃない」「いいたいことは それだけ?」「なにさ、ぼろきれみたいな チェクポを ぶらさげてるくせに」

この後、二人の言い争いはつかみ合いの喧嘩に発展します。「お友だちとは仲良く」と大人は思います。ですが、子ども同士は、これは譲れないと思ったら、時にはお互いの感情を遠慮なくぶつけ合うのです。

ダヒと別れ、ひとりになったオギは、自分のチェクポを、こんなもの! とえんぴつでひっかきます。……という所からが、この絵本のクライマックス。実は、このチェクポ、オギのおばあさんがオギのためにひと針ひと針、想いを込めて縫ったものなのです。この後、さらにあることが起こって、オギは、ダヒとぶじ仲直りするのですが、その際、活躍するのも、このチェクポ。喧嘩の原因となったチェクポを通じて二人が仲直りするという結末に、物語の核心があります。

訳者のおおたけきよみさんの解説によると、この絵本の舞台は、1970年代の韓国の農村。急速に経済発展する中、古くからある伝統的なモノは姿を消していきました。物語には描かれていませんが、オギも、おそらくこの後、新しいカバンを買ってもらったのだと思います。子どもたちがチェクポで教科書を包んで学校に行くという風景もなくなってしまいました。

それでも今、この絵本を読んで感じるのは、古い端切れを縫い合わせて美しい布として活用するという韓国の人々の生活の知恵、また絵本の中のおばあさんのように、ひと針ひと針に想いを込めて身の回りの物を作るという手仕事の尊さです。

原書は2013年に韓国で出版され、その後も版を重ねています。この絵本のような風景が失われて久しい時代だからこそ、心に響くものがあるのでしょう。今、子どもたちと一緒に楽しみたい、隣国・韓国の美しい絵本です。

「日々の絵本」担当F
チーム新加盟。入社15年目。趣味(最近)は野鳥観察と盆踊り、好きな場所は本屋さん。

2019.09.16

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