あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|鎌田 歩さん『巨大空港』

今回ご紹介するのは、9月の新刊『巨大空港』。たくさんの人々、モノ、乗り物が行き交う、にぎやかで巨大な国際空港の1日を、様々な視点から紹介する科学絵本です。エッセイでは、作者の鎌田歩さんが、初めて空港を訪れたときの思い出、そして、絵本のモデルとなった成田国際空港での取材の様子を語ってくださいました。

空港は、ひとつの大きな街

鎌田 歩


はじめて空港に行ったのは、二十歳の頃。ひとりでアメリカへ旅行したときです。

生まれてはじめての飛行機の旅は何を見ても新鮮で、機内ではただ楽しく過ごしていました。そして到着したのは巨大なサンフランシスコ空港です。飛行機を降り、案内通り進んでいくと突然、巨大なロビーが目の前に広がりました。たくさんの旅行者が行き交っています。様々な人種、響き渡るアナウンス……一気に緊張感が高まってきます。そもそも言葉もわかりません。平気なふりをしながら乗り換えゲートを探すのですが、緊張しているせいか自分がどこにいるのかさっぱりわからず、同じところを行ったり来たりするばかり。だんだん迷子の子どものような気持ちになってきました。とりあえず落ち着こうと、トイレの個室に入ったのですが、やたらと広く、扉も両側の壁も足元が大きく空いています。ひっきりなしに人が行き来するのを見ながら、外国に来たんだなあ、と実感しました。空港の広いロビーを歩くといつも、あのときの不安と高揚感が混ざった気持ちを思い出します。

今回題材となった成田空港もまた、日本を代表する大きな国際空港です。

取材では様々な場所に案内していただきました。例えば、ターミナルビルの地下には関係者が使う長い通路があります。背広を着た人、つなぎを着た整備士、清掃員や制服のグランドスタッフなど、服装も持ち物も違ういろんな職種のひとたちが、同じ通路をすれ違います。休憩をとる人、これから職場に向かう人……次々に通り過ぎる人たちを見ていると、大きな劇場の舞台裏に迷いこんだような気持ちになってきます。そして旅行者で賑わっているターミナルビルから離れると、がらっと空気が変わります。トラックや大型トレーラーが出入りする貨物地区は、港や工業団地のようなところです。大きな貨物上屋に入ってみると、ちょうど荷物を組み上げている最中でした。フォークリフトが、まるでレース場のようなすごい速さで動き回って荷物を集め、みるみるうちにパレットの上に荷物が組み上がっていきます。できあがった大きな塊を見ると、これが空を飛んでいくのかと不思議に思えるほどです。建物の外に出ると、すぐ目の前はフレイター(貨物専用輸送機)の駐機場。ボーディングブリッジもなく支援車両もいないので、旅客機の駐機場のような慌ただしさはありません。ターミナルビルと同じ敷地内とは思えないほど落ち着いた雰囲気です。スタッフが淡々と貨物を積み込んでいるなか、機長さんら乗員たちもフライトの準備をしています。ケータリングや水などを自分たちでセットしている姿は、ロビーで見かける颯爽とした姿と違ってとても身近に感じます。

広いターミナルビルを歩き、敷地内を車で移動して回るうちに、旅行者が見ているのは空港のなかのほんの一部分、ということがわかってきました。空港は職場でもあり、観光地でもあり、商業地でもあり、旅の通過点でもあるのです。

ターミナルの優雅なレストランで家族が食事をしているとき、貨物地区ではタイヤの音をきしませてフォークリフトが走り回っています。展望デッキで大空に飛行機を見つけた子どもたちが大喜びしているとき、管制塔ではパイロットと挨拶を交わしているかもしれません。

空港はまさにひとつの大きな街のようなもの。迷うこともあるでしょう。けれど大丈夫です。空港を支えるたくさんの人々は、みんな自分の仕事に誇りをもって働いています。必ず助けてくれるはずです。



鎌田 歩(かまた・あゆみ)
東京で生まれ、少年時代を長野県松本市ですごす。絵本作品は、『飛行機しゅっぱつ!』『新幹線しゅっぱつ!』『路線バスしゅっぱつ!』『なんでもあらう』(以上、福音館書店)、『すごいぞ!! きょうりゅう』『はこぶ』(以上、教育画劇)、『しゅつどう! しょうぼうたい』(金の星社)「はしる! 新幹線」シリーズ(PHP研究所)、『ヘリコプターのぷるたくん』『ちかてつのぎんちゃん』(以上、小学館)など多数ある。

2019.09.04

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