失敗を繰り返して見つけた自分の居場所 『ぐるんぱのようちえん』
失敗を繰り返して見つけた自分の居場所
『ぐるんぱのようちえん』
「ぐるんぱ」はとても大きなゾウ。けれどもいつもひとりぼっちで、寂しがって泣いてばかりいました。ゾウの仲間たちは、そんなぐるんぱを見かねて働きに出ることをすすめます。汚れていた体をみんなに洗ってもらい、みちがえるほど立派になったぐるんぱは、働く決心をして元気に出発!
ぐるんぱは最初に、ビスケット屋さんで働きます。張り切ってつくったビスケットは、大きな大きな特大ビスケット。けれども、大きすぎてだれも買ってくれません。けっきょくぐるんぱは「もう けっこう」と言われてクビになり、特大ビスケットを持って出ていきます。
次に、お皿つくりの仕事をしますが、池のように巨大なお皿をつくってしまい、ここでも「もう けっこう」。そのあとは、靴屋さんに行き、ピアノ工場に行き、自動車工場に行きますが、何をつくっても人間には大きすぎるものばかりで、どこもかしこも「もう けっこう」……。ぐるんぱは、自分がつくった特大サイズの役に立たないものたちを抱えて、しょんぼり、しょんぼり。また、昔のように涙が出そうになります……。
そんなとき、子どもが12人もいるお母さんに出会います。そして、子どもたちの洗濯物が多すぎてたいへんなお母さんから、子どもたちと遊んでくれないかと頼まれます。ぐるんぱがピアノを弾きながら歌を歌うと、子どもたちは大喜び。さらに、あっちからもこっちからも子どもが集まってきて……。
ものづくり職人としての確かなセンスを発揮しながら、つくるものが巨大すぎるばかりに仕事をクビになる……なんて生き方の不器用なぐるんぱ。その姿に感情移入して応援したくなるおとなの読者もいることでしょうが、それもそのはず、作者の西内ミナミさん自身「ぐるんぱは、当時の自画像だった」と語っています。
この作品を書いている当時、西内さんは広告会社でコピーライターの仕事をしていましたが、同業のクリエーターが闘志むき出しで競争をする姿についていけずに息苦しさを感じていたうえ、数ヵ月後に出産を控え、仕事をどうしようかという悩みのただ中にあったそうです。大勢で競争をしながら一番を目指すのはたいへんだし、そこからはみだしてしまうこともある……。それでも、最後にぐるんぱは自分だけの居場所と幸せをみつけます。はみだしても挫折を繰り返しても、誰にでも自分の居場所がきっとあるというエールをもらえて励まされる絵本ですが、なによりもまず、西内さんの陽気でリズミカルな文章と堀内誠一さんの生き生きとした絵が合わさった抜群の楽しさが、半世紀以上も子どもたちに愛されている理由でしょう。
それにしても、最後にぐるんぱの開いた幼稚園は、まさしく子どもにとっては夢の世界。お皿のプールで泳げるし、大きな靴でかくれんぼができます。ぐるんぱの鼻で滑り台も楽しめます。それになんといってもビスケットが食べ放題。特大ビスケットは、食べても食べてもなくならないんですから。
参考:『おじいさんがかぶをうえました ―月刊絵本「こどものとも」50年の歩み』(福音館書店)
「日々の絵本」水曜担当・Y
チームふくふく本棚の長老。趣味は、お酒と野球とトロンボーン。
2019.02.27