四季折々のお祝いの思いとともに。『あずき』
四季折々のお祝いの思いとともに。
『あずき』
ページをめくると目に飛び込んでくる、おいしそうなたい焼き。かりっと焼けた皮から少しあんこがはみだしていて、食欲をそそります。そのたい焼きにかじりつくと、なかにはおいしそうなあんこがいっぱい! さて、そのあんこをよく見ると、丸いつぶつぶがたくさんあります。このつぶつぶは……そう、あずきです。あずきの一粒一粒があんことなってたい焼きの中につまっています。
あずきはもともとは赤い色をした小さな豆です。
小さな豆をひと粒、土にまくと、芽を出しどんどん伸びて、やがて黄色い花を咲かせます。その花がしぼむと同時に、こんどは花の根元が伸び始め、豆のさやができます。そして、さやの中の豆が色づいてやがて収穫。ひと粒のあずきから306粒の豆が収穫できたことなど、この絵本ではまず植物としてのあずきの生態が、ていねいな観察をもとに描かれます。
収穫された赤いあずきを水で煮て、さらに砂糖と塩をいれてじっくりと火にかければ、いよいよあんこの完成。そして、あんこをつかったお菓子のなんと多彩なこと! あんぱん、だんご、おはぎ、だいふく、あんみつ……絵本を見ているだけでよだれがでてきそうです。
あずきの生長から、あんこを使った美味しそうなお菓子までを、繊細なタッチで描いているのは荒井真紀さん。自然をテーマにした数々の絵本を生み出し、2017年に『たんぽぽ』(金の星社)で、世界的な絵本賞である、ブラティスラヴァ世界絵本原画展「金のりんご賞」を受賞しました。
あずきを使った食べ物は、お祝いごとのあるときによく食べられます。
お正月のおしるこ、ひな祭りのさくら餅、こどもの日のかしわ餅……。それに、めでたいことがあるときには、あずきの入ったお赤飯も食べますよね。あずきの豆の赤い色は、昔からおめでたい色とされ、その力をもらいたいと願う気持ちから、お祝いごとのときには、あずきをつかった食べ物が食べられてきたことが、絵本の最後に紹介されます。あずきは四季折々、日本人の願いとともにあった食べ物なのですね。
徹底的に対象を観察して写実的でありながら、やさしくあたたかみのある荒井さんの絵が、あずきを通じて、しっとりと和の心を伝える絵本です。みなさんも、あずきの和菓子に舌鼓を打ちながら、そこに込められた先人の願いに思いを馳せてみてください。
「日々の絵本」水曜担当・Y
チームふくふく本棚の長老。趣味は、お酒と野球とトロンボーン。
2019.01.16