絵本作家の誕生日

1月16日 中谷千代子さん|絵本の詩人 

月に1回、その月にお誕生日を迎える作家・画家とその作品をご紹介する「絵本作家の誕生日」。1月16日は、リアリティを持った絵本の絵を追究した中谷千代子さん(1930年-1981年)のお誕生日です。

絵本の詩人

中谷千代子さん(1930年1月16日生まれ)

画面いっぱいにかばが描かれた『かばくん』の表紙。保育園や幼稚園で、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。キャンバスにペンの輪郭線と薄い油彩で描かれたリアリティのある絵は、動物たちの体温まで感じられるようなあたたかさを感じさせてくれます。

この絵本を描いた中谷千代子さんは、東京生まれの東京育ち。子ども時代は戦争中で、勤労動員も経験しました。絵の才能に恵まれていた中谷さんは、戦後、東京美術学校(のちに東京藝術大学美術学部)油画科に入学します。いつもスケッチブックを持ち歩き、寸暇を惜しんでデッサンする熱心な学生だったそうです。結婚後は、学生時代にも続けていた子どもに絵を教える仕事をしていました。

1960年、詩人の岸田衿子さんとのコンビで絵本作家としてデビューします。はじめての絵本は、「こどものとも」52号(1960年7月号)『ジオジオのかんむり』でした。
実は、中谷さんと岸田さんは、美術学校の同級生。ふたりの出会いは、受験の日の休み時間に、中谷さんから声をかけたのがきっかけだったそうです。めでたく合格した二人はウマがあう友人同士でしたが、体調を崩した岸田さんは絵の道を断念して、言葉の道に進みます。
絵本の世界に興味を持っていた岸田さんに誘われ、中谷さんは福音館書店を訪ねました。そして、当時の編集長、松居直の絵本作りに共感した中谷さんは、「リアリティを持った絵、そしておとなの鑑賞にも絶対に耐えられるような高度な芸術性をもった」絵本作りを目指す決意をします。

年老いたライオン、ジオジオの造形は、「年とったオーケストラの指揮者とか、ピカソのような眼つきの顔にしたら」という岸田さんの言葉から「王者の風格がある、仕事のために戦いぬいた年老いた芸術家」というイメージを得て描かれました。中谷さんは、イメージに合うライオンを探してデッサンを重ね、原画を7回も描き直したそうです。こうして、王冠をかぶったジオジオのリアリティが生まれました。

『かばくん』は、「こどものとも」78号(1962年9月号)として刊行されました。中谷・岸田コンビの3作目です。動物園にやってきた男の子が「おきてくれ かばくん」と呼びかけるこのシンプルなお話は、岸田さんが作詞した童謡がもとになっています。
中谷さんは、母校の隣にある上野動物園に通い、何度もデッサンを重ねました。
「本をあけてみたらそこに存在している、手でさわってみたくなる感じを現実的に与えたいと思った」という中谷さんのねらい通り、『かばくん』は多くの子どもたちに支持され、さらに翌年の1963年、ドイツのフランクフルト国際図書展でも注目を浴びました。欧米の各国で次々に翻訳出版され、『かばくん』は日本の絵本の評価を高めるきっかけとなりました。

松居直は、中谷さんを「美しい油彩画の画面で動物たち自身に詩や物語を語らせる、かけがえのない絵本の詩人です」と語っています。
実は岸田衿子さんは中谷さんのひとつ年上の1月5日生まれ。1月生まれのふたりの運命的な出会いが、日本の絵本の世界を豊かに変えていったといっても過言ではないでしょう。

中谷千代子さんの絵本はこちらからご覧いただけます。

2019.01.16

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