街はずれの洋館で過ごす、素敵で特別な2か月間『十一月の扉』
街はずれの洋館で過ごす、素敵で特別な2か月間
『十一月の扉』
11月が好きです。ハロウィンや、クリスマスみたいに賑やかなお祭りはないけれど、年末年始の慌ただしさに向き合う前に、ちょっと立ち止まって落ち着いた気持ちになれる、静かな秋の終わりの雰囲気が好きなのです。
今回ご紹介する『十一月の扉』もまさに11月にはじまる物語。街はずれの洋館に下宿することになった少女の2か月間にわたる生活が、みずみずしく爽やかに綴られた一冊です。
爽子は中学2年生の女の子。両親と小学生の弟と一緒に、父親の転勤先の街のアパートに住んでいます。ある日、家の窓からふと双眼鏡で覗いた景色の先に、赤茶色の屋根の白い洋館を見つけた爽子は、ときめきを感じて、翌日さっそくその洋館を訪ねてみることに。
丘陵の中腹にたたずむ洋館に辿り着いた爽子は、洋館が「十一月荘」という名前の下宿屋であることを知ります。洋館を訪ねたその日も11月になったばかりの日であったことに、運命を感じる爽子。そのあと、近くにひっそりとたたずむ文房具店で、美しい装飾の施されたノートを買い、帰路につきます。しかし、自分だけのささやかな秘密に胸を高鳴らせたのもつかの間、爽子は翌日、父親が再び転勤になったことを知らされます。突然のことに戸惑う爽子はとっさに、2学期の間だけ「十一月荘」に下宿して街に残りたい、と両親に申し出るのでした。
なんとか下宿を認められ、晴れて「十一月荘」の住人となった爽子は、あの文房具店で買ったノートに、自分で創った物語を書き記すことを思いつきます。そしてその物語の読み手は、同じ階に住む小学生の女の子。爽子の創る物語は「十一月荘」やその近隣に住む個性豊かな住人たちとの交流、そして「十一月荘」を訪れる年上の男の子の存在と響きあって豊かに膨らんでゆきます。しかし、「十一月荘」で過ごす特別な時間は、爽子の気持ちをよそに、刻一刻と終わりに向かって刻まれてゆくのでした……。
「十一月荘」で暮らす爽子の日常と、爽子が書く『ドードー森の物語』、二つのお話が織り交ざって紡がれるこの物語。爽子の日常の描写からは、限りのある時間の中で、懸命に「今」を生きようとする少女の姿が鮮やかに浮かび上がります。一方、『ドードー森の物語』では、全く違った世界の物語が軽やかに綴られます。ひとつの本でふたつの物語を読んだような満足感を味わえる作品です。
年末が近づき、時の流れの早さが身にしみる時期。忙しい毎日に少し疲れてしまったなと感じたら、ほっと一息つきながら、この本のページをめくってみてはいかがでしょう。記憶の奥に閉じ込められた、自分だけの特別な時間の豊かな思い出とともに、明日へと一歩踏み出す活力が湧き上がってくるはずです。
金曜担当・U
チームふくふく本棚のNew Face。趣味は、好きな俳優の演技を真似して悦に入ること。
2018.11.02