特別エッセイ|共田鍾貴先生「はんぶんこは、しあわせのおすそわけ」〜『はんぶんこ』刊行によせて〜
まるいドーナツやほくほくの焼き芋。誰かと“はんぶんこ”すると、もっとおいしい!
2月の新刊『はんぶんこ』(杜今日子・さく)は、ひとつの食べ物を分かち合うときの喜びや幸福が、一冊にぎゅっと詰まった食べ物絵本です。
2020年に月刊絵本「こどものとも0.1.2.」で刊行された本作ですが、ハードカバー化を記念して、0.1.2歳の子どもたちが実際に楽しむ様子を保育園の先生に綴っていただきました。成長とともに、相手との関わり方も変わっていく子どもたち。日々、子どもたちと接する保育士さんならではの視点が新鮮です。絵本とあわせて、ぜひお読みください。
はんぶんこは、しあわせのおすそわけ
共田鍾貴
私の勤めている保育園では、1歳児クラスには、同じおもちゃをできるだけ複数個置くようにしています。それこそ「こどものとも0.1.2.」の月刊絵本だって、ひとクラスに2冊以上あるのです。それは、この時期の子どもたちは「同じ」ということ(正確に言えば、物や形を見分けること)が分かってきて、そのやりとりが楽しくて仕方がないからです。友だち同士で、一緒のおもちゃや絵本をそれぞれ持って見合っているときに、大人が「おんなじ、おんなじだね」と声をかけると、とてもうれしそうに笑うのはそのためです。
ところが、さらに子どもたちの脳が発達してくると、「おんなじ」は、簡単ではなくなります。同じものでも、その子の使っている「同じもの」が欲しい! に変化していくからです。まさに「隣の芝は…」です。この時期の子どもたちにとっては、同じ絵本でも、それは決して同じということだけにはとどまらず、大好きなあの子の持っている“それ”が欲しい! になるわけです。
その後、3歳くらいになると、ちょっと待てば、“それ”を使うことができる「かわりばんこ」を新たに経験から学んでいくのですが、私は「おんなじ」と「かわりばんこ」と同じくらい大切なものに「はんぶんこ」があるのでは、と思っていました。なぜなら、はんぶんこは、二人ともがしあわせになるために、ちょぴっとだけお互いが譲り合わなくてはいけないからです。仲良くはんぶんこで、しあわせのおすそわけ、なのですね。
そんな「はんぶんこ」をテーマにした絵本が、月刊絵本「こどものとも0.1.2.」で出たときは本当にうれしく、ハードカバー化されることを心待ちにしていました。
さて、前置きはさておき、この絵本を、0.1.2歳児クラスで読みました。
0歳児では「ぱんぱん」と、つまんで食べる真似をしたりと、興味を持ってみていましたが、理解からすると、2歳児が一番興味津々で、出てくる食べ物を「さつまいも」「おにぎり」と、声をあげて話していました。出てきた瞬間に、パクっと食べてしまう子どもたちに「半分こして食べようよ」と声をかけると、うなずいて大人がページをめくるのを待ちます。「こっちの半分食べる人―?」「もう半分食べる人―?」と、交互に声をかけると、どちらにも手をあげる姿はいかにも2歳児らしい姿でした。
私の読み方もあるのか、「はんぶんこ」の、「こ」の字を読むのに合わせて、子どもたちも一緒に「こ!」と声をだしたり、ページをめくるたびに、やり取りも楽しみました。
さらに、この絵本は、実はもう一面、違った楽しみ方もあるのです。「はんぶんこ」と言って、ページをめくると、ふたつに分かれた食べ物の中身がわかるのです!! 例えば、おにぎりでしたら、平山和子さんの『おにぎり』、ドーナツでしたら小西英子さんの『まるくておいしいよ』など、見ているだけで食べたくなってしまう絵本はたくさんありますが、中身が見える絵本はとても珍しい!
大人は中身が想像できるので、「へぇ~」くらいにしか思わないかもしれませんが、まだまだ食に対して未体験のことが多い子どもたちにとっては、まさに「わぁ~!」な世界なのです。
子どもって、中身を見て、「やっぱり食べたくない」や、中身を見ないで一口食べた後、「もういらない」とか、そんなことが日常茶飯事ですから……。だから、前もって中身がわかるって面白いし素敵! って、子どもたちはきっと思ってるはずですよ。
共田鍾貴(ともだ・しょうき)
社会福祉法人 豊川保育園
としま みつばち保育園 園長
三人の子どもの父親でおやつのせんべいの最後の一枚を、二人の子どもに配る際、うまく半分に割れず、子どもたちに泣かれた経験を持つ。
2023.02.10