現代の子どもたちに出会ってほしい昔話絵本『しょうとのおにたいじ』
『しょうとのおにたいじ』
昔話には、人々の知恵や勇気、ユーモアや残酷さなど、物語が持つさまざまなエッセンスが詰まっています。そんな昔話のなかでもぜひお薦めしたいのが、『しょうとのおにたいじ』です。
作品は、主人公のしょうと(小鳥のホオジロ)が仲良しのお地蔵さんの耳の中にたまごを3つ産み落とすところからはじまります。しょうとはいいます。「おじぞうさん、おじぞうさん、こどものもりをたのみます。どうしても、はたらきにでにゃあならんでのう」。そこへ、さっそくしょうとの留守にやってきたのが、赤い鬼。お地蔵さんをだましてたまごをひとつ食べてしまいます。
次にやってきたのが青い鬼。またお地蔵さんをだまして2つ目のたまごを食べてしまいます。
そして、最後にやってきたのが黒い鬼。またまたお地蔵さんをだまして3つ目のたまごを食べてしまいます。
そこに帰ってきたしょうとは悲しくて悲しくてたまりません。けれども、友だちのどんぐりに励まされて、鬼退治に出発します。そして、とちゅうで出会った蟹、蜂、牛、臼、縄と協力して、しょうとは鬼に立ち向かいます……。
物語では、赤い鬼、青い鬼、黒い鬼の3匹の鬼が描かれていますが、実は鬼は赤い鬼1匹だけ。お地蔵さんをだまして3つ全部のたまごを食べたいがために、赤い鬼が何度も色を塗り重ねてやってくるのです。このことは、文で具体的に語られていません。ですから、多くの読者は次々に3匹の鬼がやってきたのだと勘違いしてしまう絵本です。
ですが、子どもたちは違います。耳から「文のことば」を受け取りながら、目からも「絵のことば」をしっかりと読み取ります。(前出の絵をご覧ください。青い鬼のひざ下には元の赤い鬼の赤い色が、そして、黒い鬼のひざにも赤い色が残っています。)だから、何度もだまそうとする赤い鬼のことを見て、ますます許せなくなるのです。興味いっぱいによく聞き、よく見る子どもたちだからこそ、耳で聞くことば(文)と、目で見ることば(絵)、絵本の中の「2つのことば」をしっかり受け取り、本当の物語を楽しむことができるのでしょう。
この昔話は、広島県の上下町で採話されたものです。民俗学者の柳田国男は、猿蟹合戦以上にこのお話はよくできていると綴っていますし、再話者の稲田和子さんも日本の5大昔話(「うらしまたろう」など)に劣らぬ楽しい昔話だと話されています。つまり、3度もだました憎たらしい鬼をやっつけにいく、ちゃんとした理由がこの昔話には描かれているというのです。
実はこの作品、絵を描いた川端健生さんは絵本の完成を見ず他界されました。最初で最後になった絵本に残されたたくさんの「絵のことば」を、稲田和子さんの生き生きとした語りとともにぜひお楽しみください。
その他、鬼が登場する子どもたちが大好きな日本昔話絵本に『だいくとおにろく』『かえるをのんだ ととさん』、創作童話に『オニタロウ』があります。こちらもどうぞお楽しみください。
担当S 月刊こどものともで刊行された27年前、「おとうさん、青鬼は赤鬼なんだよね。黒鬼も赤鬼なんだよね」と私に教えてくれたのは、年長さんの息子でした。
2023.02.03