今月の新刊エッセイ|おくやまゆかさん『三まいのはがき』
今月の新刊『三まいのはがき』は、題名の通り、ゆうたに届いた三まいのはがきが発端となって展開する童話です。それは「ナメヨ」「ガマコ」「ニョロミ」からの招待状で、心当たりのないゆうたでしたが、「ちょっとおもしろそう」と三人を訪ねてみることに……というお話。続きはぜひ本をご覧いただきたいのですが、作者のおくやまゆかさんがこの物語を考えた元になったのが「さんすくみ」という言葉でした。そんな「さんすくみ」のお話も含め、物語に込めた思いをエッセイにつづっていただきました。
いのちのお仲間
おくやまゆか
このお話、いつ書いたのだっけと手帳を見返したら7年前にはできあがっていた。主人公のゆうたと3匹が7年間もじーっと眠り続けていたと思うと、こうして本になって動き出すことができてよかったなあとしみじみ思う。
だいぶ時間が経っているので細かいことは忘れてしまったが、確か「さんすくみ」について何かで読んだのがお話を作るきっかけだったと思う。作中、一言も出てこないけれど、これはナメクジとカエルとヘビのさんすくみの関係が基になっている。ナメクジはカエルを、カエルはヘビを、ヘビはナメクジを怖がって身動きできなくなる、というジャンケンの関係。
ナメクジはヘビより強いなんて本当かな、3匹が顔を突き合せて固まってるのかわいいな、想像するだけで色々可笑しい。その想像がどんどん走り出して、あっという間に書きあげたかと思う。
私はかわいいな、可笑しいなと思って書いたけれど、このお話のことを人に話すと3匹の不人気ぐあいに驚かされた。大の苦手、見るのもイヤという声も。確かに私も人間に好まれていないという描写をしているのだけれど、リアルにそういう声を聞くと、なんだかものすごく寂しい。
私の母は昔から生き物が好きで、犬猫鳥にはもちろんのこと、アリやハチやカエルにもしきりに話しかける人だった。父も毛虫やクモをおもしろがって眺める人だった。そういう人たちの傍にいたせいか、私も生き物が好き。ナメクジもカエルもヘビも顔をすり寄せて愛でたい訳ではないが、生き物はみんな私をわくわくさせる。
先日ベランダの物干しにヤモリがいた。金属の蝶番の間にいて潰してしまいそうだったので、他へ逃がしてやろうと捕まえると人差し指をガブリと噛まれた。勝手に気性のおとなしい生き物だと思っていたのに、結構必死で噛んでくる。「ごめんごめん」とヤモリを運びながら、でも内心は興奮していた。ギュッとしがみつく指や顎の力強い感触、小さい体にエネルギーが詰まっていて、「ああ、いのちだ! お仲間だ!」と思った。
ヘビの毒で死ぬと聞けば怖いと思うし、蚊に刺されれば血まなこで退治する。お話の中でも3匹のちょっと尋常でない行動にゆうた少年もドッキリするのだけれど、生き物にはそれぞれに事情がある。人間の都合で考えると腹も立つし、嫌いにもなるだろうけれど、必死に自分の生をまっとうしようとするお仲間なのだと思うと愛しい気持ちにならないだろうか。それに彼らがお仲間となれば、少し落ち込んだ時など、道端の四方八方に自分を励ます存在があるということだ。なんと心強い。
この本を読んでくださった皆さんも、いろんな生き物を仲間と思って、励ましたり励まされたりしてほしいなあと思う。追いかけられるのは困りものだけれど。
おくやまゆか
『たましい いっぱい』(KADOKAWA)で第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞。漫画に、『むかしこっぷり』(KADOKAWA)、『コットリコトコ』(小学館)、児童書に『うりぼうウリタ』(偕成社)などがある。友人たちと、マンガと小説の雑誌「ランバーロール」を主宰。図書館員。
2022.09.13