井上洋介さんが遺した、最後の絵本『ホウホウフクロウ』
井上洋介さんが遺した、最後の絵本
『ホウホウフクロウ』
『ものうり草子』『あじのひらき』『まえむき よこむき うしろむき』など、独特のユーモアをたたえた絵本を手がけてきた井上洋介さん。ナンセンスな世界観の作品がよく知られていますが、2016年に亡くなった井上さんの最後の絵本『ホウホウフクロウ』は、ナンセンス絵本ではなく、静けさと力強さをあわせ持った水墨画の絵本でした。
「ふくろう おおきな メダマで ほう ほうって うたう なにみて うたうの」
墨で描かれたふくろうが、闇夜で何かをみつめています。夜も「ジジジィ」と鳴くのは、明日が待ち遠しいセミ。きらめく金や銀の絵の具で彩られたミミズクは、墨色の闇の中でふわりと飛んでいます。そんな闇夜に息づく生きものたちの姿が、大判の画面いっぱいに堂々と描かれています。淡々とした散文詩のような言葉も、夜の静けさと、闇に溶け込む生きものの気配を、より色濃く感じさせるようです。
「言葉にならないことを絵にしたい、その絵で人の心を動かしたい」と語り、絵で何かを伝えようと、常に斬新な発想で絵本を作ってきた井上洋介さん。『ホウホウフクロウ』は、言葉も絵も、遺されたそのままのかたちで出版したものです。じっくりとお楽しみください。
2017.06.23