作者のことば 荒井真紀さん『まどのむこうの くだもの なあに?』
「果物ってこんなにも神秘的な植物だったんだ!」。荒井真紀さんの『まどのむこうの くだもの なあに?』は、2019年に月刊絵本「こどものとも年中向き」7月号として刊行され、すぐに大きな反響を呼んだ絵本です。見慣れたはずの果物を、拡大してみたり、断面にしてみたりすると……そこには見たこともない美しい世界が広がっていました。今回ハードカバー化されるのに際し、月刊絵本刊行時の荒井さんの「作者のことば」をお届けいたします。
拡大して見てみたい!
荒井真紀
ある時、果物を拡大した写真を目にすることがありました。見慣れたはずの果物がまったく別のものに見えて、不思議な気持ちになったのを覚えています。そして、「あの果物だったら、どんなふうに見えるだろう」と、いろいろな果物が思い浮かび、「拡大して見てみたい!」と思ったのです。
最初に拡大してみたのは、イチゴ。イチゴの実の外側についているつぶつぶは種ですが、その種にめしべが残っていて、まるでしっぽのように見えます。
メロンの迷路のような模様は、実が大きくなる時にひび割れてできた「跡」です。白いすじは思っていた以上に盛り上がっていました。パイナップルはたくさんの小さな果実の集合体です。それぞれの小さな果実の花が咲き、花の散ったあとに花の根元がふくらんで、でこぼこ模様ができるわけです。「でこぼこ」は規則正しくぎっしりと並んでいました。
スイカの中は…。実の中を見てみるまでは、種は散らばって入っていると思っていましたが、実際は一定の法則に従って並んでいました。
リンゴの実の中には、5つの部屋があり、その中に種が入っていました。すべての部屋に種が3個以上、合計15個以上入っていると「1番おいしいリンゴ」になるそうです!キウイの実の断面は、とても「美しい模様」です。小さなつぶつぶは種ですが、なんと1000個以上も入っているとのこと。ミカンの実の断面も、キウイに負けないくらい美しい形と色をしていると思いました。調べてみると、房の数は、10個であることが多いようですが、決まっているわけではなく、8〜13個と言われているようです。
最後はザクロ。ちょっと珍しい果物ですが、どうしても実の中を見てみたくて取り上げました。赤くて透明な小さな粒がぎっしり詰まっているのですが、まるで宝石のように輝いていました。この赤い粒の中には種が入っていて、種もいっしょに食べることができます。ジュースにしたり、ヨーグルトに入れて食べてもおいしいです。
「まどのむこうの くだもの なあに?」。今度は、あなたが見てみたいと思う果物を探してきて、じっくりと観察してみて下さい。きっと新しい発見があると思いますよ。
荒井真紀
1965年、東京都生まれ。16歳より故・熊田千佳慕氏に師事する。自然科学専門の編集プロダクション勤務を経て、フリーのイラストレーターに。自然をテーマにした雑誌や書籍の挿絵の仕事をしている。絵本に『あずき』『じゃがいも』(ともに福音館書店)『あさがお』『ひまわり』『たんぽぽ』(以上、金の星社)『チューリップ』(小学館)などがある。2017年『たんぽぽ』でブラティスラヴァ世界絵本原画展・金のりんご賞受賞。
2020.11.02