もじもじしていても、友だちのためにがんばる! 『もじもじこぶくん』
もじもじしていても、友だちのためにがんばる!
『もじもじこぶくん』
こぶたの「こぶくん」は、恥ずかしがり屋。今日はひとりでアイスクリームを買いにいきます。「イチゴ味がいいかな、チョコ味がいいかな」と思いを巡らしながら……。でも、アイスクリーム屋さんに着くと、なんだか恥ずかしくなって声が出なくなってしまい、もじもじ、もじもじ。
「どのお味にしましょうか?」とお店のお姉さんが声をかけてくれるけれど、こぶくんは、ますます下を向いてもじもじしてしまいます。するとサイおくさん、ワニにいさんなど、あとから来た動物たちが次々にこぶくんを押しのけてアイスを買ってゆきます。圧倒されたこぶくんは、何も言えなくてますますうなだれてしまい、鼻の先が今にも地面に届きそう……。
すると、そんなこぶくんの耳に、「イチゴ味のくださーい」という小さな小さな声が聞こえます。誰の声だろうとあたりを見回してみると、それはアリの「ありいちゃん」の声でした。ありいちゃんは、一生懸命アイスの注文をしているのに、体も声も小さすぎて気づいてもらえないのです。悲しくなって、ありいちゃんはポロンと涙をこぼしました。
それをみたこぶくんは、「よし」と決心します。そしてありいちゃんを肩に乗せると、お店のお姉さんに向かって、2人分のアイスの注文をするのでした。自分でもびっくりするくらいの声で……。
最後は、勇気を振りしぼって手にしたアイスクリームを美味しそうに食べるふたり。その時は、こぶくん、ちっとももじもじしません。だって、もじもじしていたら、溶けてなくなってしまいますから!
このシンプルで楽しいお話の作者、小野寺悦子さんは、ご自身も恥ずかしがり屋だそうで、お孫さんといっしょに「もじもじごっこ」などを楽しんだ体験から、物語が生まれたのだとか。絵を描いたのは、きくちちきさん。躍動感のある線で描かれた場面からは、もじもじしてうなだれてしまうこぶくん、勇気を振りしぼってがんばるこぶくん、その時々のこぶくんの心情がストレートに伝わってきて、おもわず感情移入してしまいます。この絵本を読んでもらった子どもはもちろん、おとなもきっと、愛らしいこぶくんを応援したくなりますよ!
入園や入学で、新しい場所での一歩を踏み出す季節。でも、なれない環境でとまどって、もじもじしてしまう……そんなちょっぴり内気な子どももいることでしょう。でも、もじもじすることはけっして恥ずかしいことじゃないんですよ。そしていつの日か、なにかのきっかけで、すっと一歩を踏み出せることもある……そんな、あたたかなメッセージにつつまれた幸せな絵本です。
※写真は、東京・巣鴨の「パティスリー ・ヨシノリ・アサミ」さんにて。
「日々の絵本」担当・Y
チームふくふく本棚の長老。趣味は、お酒と野球とトロンボーン。
2019.04.12