日々の絵本と読みもの

ひとつのかぶをめぐる“ぐるぐる話”『しんせつなともだち』

『しんせつなともだち』

雪がたくさん降って、野山もすっかり真っ白になりました。子うさぎは、食べるものがなくなってしまったので、外へ探しにでかけました。
「おや、こんなところに かぶが ふたつも あった」

子うさぎはよろこんで、ひとつだけ食べて、ひとつは残しました。そして、こんな寒い日には、「ろばさんはきっと食べものがないだろう」と残したかぶを持っていってあげることにしました。ろばの家は留守だったので、子うさぎは、そっとかぶを置いて帰りました。

さて、ろばはというと、食べものを探しに出かけていました。さつまいもを見つけて家に帰ってくると、かぶを見つけます。さつまいもを手に入れたばかりのろばは、「やぎさんはきっと食べものがないだろう」とかぶを持っていってあげることにしました。さらに、子やぎは子鹿の家へかぶを持っていってやり……。
『しんせつなともだち』は、友だちへの思いやりの心がつながって、かぶが次々と動物たちのもとをめぐっていく“ぐるぐる話”の決定版ともいえるお話です。

お話を書かれたのは、中国の方軼羣(ファン・イーチュン)さんで、方さんが編集者として勤めていた中国の出版社から、1955年に別の画家の絵で出版されていました。
当時、「こどものとも」の編集長だった松居直は、中国でどんな絵本が出ているか大変興味を持っており、中国へ行く人には必ず絵本を買ってきてください、とお願いしていました。その中から、このお話を気に入り、日本の子どもたちに新たな日本版の『しんせつなともだち』を作ろうと考えました。そして、日本語訳を君島久子さんに、絵を村山知義さんにお願いして、1965年に「こどものとも」4月号として刊行されました。

簡潔で明瞭なことばと鮮やかな色づかいの絵には、長いときを経た今も変わらない魅力があります。
そして、相手を思いやる気持ちが次々に伝わっていき、最後は自分のところへとまためぐってくる。心にあたたかな灯火が灯るように、私たちが共に生きるうえで大切なことがじんわりと伝わってきます。
寒い季節にあたたかな気持ちになるお話を、親子であじわってみてはいかがでしょうか。

担当M
絵を描かれた村山知義さんの絵本『おなかのかわ』(瀬田貞二 再話)も、ちょっとシュールで子どもたちに人気がありますよ。

2023.01.27

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