創立70周年記念|リレー連載「編集長が語る、福音館の本づくり。」

底なし沼(?)の世界へようこそ|科学書編集部

2022年2月、福音館書店は創立70周年を迎えました。福音館書店には、刊行している書籍や雑誌(月刊絵本)、ジャンルや対象年齢によって、10の編集部があります。70周年を記念し、読者のみなさんに福音館の本により親しんでいただけるよう、リレー連載「編集長が語る、福音館の本づくり。」と題して、毎月各編集長のエッセイをお届けしています。第9回は、単行本で、科学の本やノンフィクションなどを刊行している「科学書編集部」です。

底なし沼(?)の世界へようこそ

科学書編集部編集長 鈴木敦

私が子どもの頃、家に『恐竜の世界』という本がありました。一色で刷られた地味な本で文字が多かったのですが、なんとなく好きでよく眺めていました。科学書へ配属になったとき、これまでの刊行物が並んだ書架にこの本を見つけて、懐かしさがこみあげてきました。

この本は小社が最初に刊行した科学の本で、1966年の11月に出ました。小社の科学書の歴史は、1967年早生まれの私とほとんど同じくらいです。科学書が担当しているのは「科学シリーズ」や「Do図鑑シリーズ」「写真記シリーズ」などで、ときどき大人向けの本を作ることもあります。「科学」というより「ノンフィクション」といったほうがピッタリくるかもしれません。フィクションの物語絵本のように、自由に想像の翼を広げてしまってはまずいわけで、現実を見つめながら、子どもたちが「ふしぎだな?」と興味を持ったり、「なんでだろ?」と疑問に思ったりすることを掘り下げて、好奇心の沼に子どもたちがドップリと漬かってしまうような本作りを目指しております。

ところで、科学は普遍的といわれますが、不変的ではありません。以前は惑星だった冥王星が惑星ではなくなってしまったり、ユリ科とされていたアスパラガスがDNA解析の進歩でキジカクシ科になってしまったり……冥王星やアスパラガスは何も変わっていないのですが、人間の都合で変わってしまうのです。また、どこまで対象を掘り下げて見つめるかによっても変わってしまいます。たとえば小学校の理科などでは「湯気は液体です」と教えたりします。これはある側面では正しいのですが、もう少し見つめると違ってきます。水蒸気は水の分子がバラバラになった状態で目には見えず、気体の状態です。一方で水滴は、水の分子が集まってひとかたまりになって目に見える、液体の状態です。湯気は、やかんなどから噴き出した水蒸気が100℃以下に冷やされて集まり水滴になったり、周囲の乾いた空気とまじり水滴が再び水蒸気に戻ったりしている状態です。だから湯気はゆらゆらふわふわと見えるわけです。両方の状態を行きつ戻りつしているからこその「湯気」なのです。

ある見方をするとそう思えることも、もっと見つめていくとまた違った世界が見えてくる……科学は終わりのない世界です。この面白さを一人でも多くの子どもたちに伝えられたらと願ってやみません。

▼私のお薦め・好きな1冊。

『やっぱりおおかみ』佐々木マキ 作


日ごろ考えてばかりの生活をしていると、ときどき嫌気がさして思考停止する瞬間がやってきます。また、政治のニュースや人間関係に疲れたときにも、脳みそが固まってしまうことがあります。そんなときに読みたくなるのがこの本。「け」の一言が鍼灸師の針のように凝り固まった頭をほぐし、最後のページをめくるころには、また清々しい気持ちで物事に向き合う事ができる座右の書です。

リレー連載「編集長が語る、福音館の本づくり。」
第1回「こどものとも第二編集部」はこちらから。
第2回「こどものとも第一編集部」はこちらから。
第3回「ちいさなかがくのとも編集部」はこちらから。
第4回「かがくのとも編集部」はこちらから。
第5回「たくさんのふしぎ編集部」はこちらから。
第6回「母の友編集部」はこちらから。
第7回「絵本編集部」はこちらから。
第8回「童話編集部」はこちらから。

2022.10.03

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