創立70周年記念|リレー連載「編集長が語る、福音館の本づくり。」

にもかかわらず、を大切に|母の友編集部

2022年2月、福音館書店は創立70周年を迎えました。福音館書店には、刊行している書籍や雑誌(月刊絵本)、ジャンルや対象年齢によって、10の編集部があります。70周年を記念し、読者のみなさんに福音館の本により親しんでいただけるよう、リレー連載「編集長が語る、福音館の本づくり。」と題して、毎月各編集長のエッセイをお届けしています。
第6回は、大人向けに「子育てのヒント」と「絵本の楽しさ」をお届けしている生活文化雑誌「母の友」を刊行している「母の友編集部」です。

にもかかわらず、を大切に

母の友編集部編集長 伊藤康

「ちょっと時間作れるかな?」。何年か前、編集長になったばかりのことです。1980年代に「母の友」編集部にいた定年退職間近の大先輩から言われました。こ、これはいわゆる”呼び出し”ってやつなのかしら? なにかを言われるのだろう……と、学校の職員室に向かう中学生の気持ちで訪ねていきますと、「自分が『母の友』編集部に異動したとき、当時の編集長に言われたことを伝えたいな、と思ってね」と。さて、それは……。

「子育て中って本当に毎日忙しいじゃない? のんびり本をめくることができる時間ってあんまりないでしょう。私が編集長に言われたのはね、そんな忙しい毎日であっても、それでも、にもかかわず、思わずページをめくりたくなるような、おもしろい記事を作ってね、って言われたの。役に立つ、とか、正しさ、とかいろいろあるけれどさ、やっぱり、雑誌は、おもしろくなきゃ。ということを言いたかったの。そういう雑誌、目指してね!」。

……。まったくそのとおりなんじゃないか……と思ってやっております。

雑誌「母の友」は2022年、創刊69年目を迎えました。「子どもは大事、わたしも大事。幼い子と共に生きる方への生活文化雑誌」をキーワードに、子育てや絵本のお話をお届けしています。1953年に「母の友」を創刊した編集者、松居直は、「『生きる』ということを皆さんと一緒に考え抜きたいと思ってこの雑誌を作った」と言っていました。

「生きる」ってなんだろう? とよく考えます。子育てに限らず、生活全般にかかわる本当にいろいろな要素があるな、と思うのですが、その“いろいろ”をあれやこれやとお届けする場所として雑誌という形式は向いているように思っています。

「生きる」ということは、人生が続いていくこと、未来のほうを向いていくということでもあるのかな、と思います。そのための“希望”、というと、ちょっと重たい気もしますが、日々のちょっとおもしろいことをお届けしていけたらと思っております。おもしろい、と思ったことは、続いていきますものね。

そうそう、最近、「母の友」を販売してくれている社外の営業担当の方から「ぼくにとって『母の友』は『はははのとも』なんですよ」という言葉をもらいました。「開くと、ははは! って自然と笑顔をもらえるんです」と。たいへん、うれしかったです。大変なこともありますけれど、“にもかかわず”笑うこともきっと大切。共に生きてまいりましょう。

▼私のお薦め・好きな1冊。

『絵本論』瀬田貞二著


なかなかに厚い本ですし、難解なのかなあ、と思ってページを開くと、こ、これは……厚い本というよりむしろ熱い本だったのか、と思ってわりとどんどん読めてしまいます。『三びきのやぎのがらがらどん』や『よあけ』など絵本の訳者でもある児童文学者・瀬田貞二さんが絵本について綴った文章をまとめた本。ためになること、なるほど、ということがたくさん書いてあるのですが、それ以上に、“おもしろい”という点に圧倒されます。“瀬田節”と呼ばれたというリズムの良い語り口にも惹きつけられます。伝説のアートディレクターにして絵本作家である堀内誠一さんによる装丁もすてきです。

リレー連載「編集長が語る、福音館の本づくり。」
第1回「こどものとも第二編集部」はこちらから。
第2回「こどものとも第一編集部」はこちらから。
第3回「ちいさなかがくのとも編集部」はこちらから。
第4回「かがくのとも編集部」はこちらから。
第5回「たくさんのふしぎ編集部」はこちらから。

2022.07.01

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