日々の絵本と読みもの

すぐに手術だ!『よるのびょういん』

『よるのびょういん』
絵本『よるのびょういん』は、白黒の絵本です。一見地味に見える本ですが、いざ手にとって読んでみると、まったく知らなかった夜の病院の世界にハラハラドキドキ。まるでドキュメンタリー映画でもみているかのような緊張感あふれる写真絵本です。


お話は、おかあさんが119番に電話をして救急車を呼ぶところからはじまります。朝からお腹が痛いといっていたゆたかくんが、夜になって高熱を出してしまったのです。担架にのせて、夜の町を猛スピードで走る救急車。病院に着いた途端、あわててかけつけてくる当直の先生。聴診器をあてたあと、おなかをぽんとおすと、「痛い!」と叫ぶゆたかくん。すぐに盲腸だとわかり、緊急手術がはじまります。


手術台の横には、たくさんの道具が並び、上からは大きなライトがゆたかくんを昼間のように照らします。仕事場からおとうさんもかけつけます……。さあ、手術は無事に成功するでしょうか。

夜の病院ではたくさんの人が働いています。救急隊員の人、看護士さん、エックス線や血液検査の技師、地下のボイラー室のボイラーマン……。たくさんの人がひとりの命を守るために眠らずに仕事をしているのです。

写真家長野重一さんは、この病院という舞台にうまくスポットを当て、さまざまなアングル、場面転換で夜の病院を多面的に切り取っています。白黒写真のため、逆に読者の想像力を刺激するのかもしれません。文は、谷川俊太郎さん。ことばの力でたんたんと「入院」「手術」という事実だけを追いながら、ぐいぐい物語をひっぱっていきます。作中には、「白血球の数も顕微鏡でかぞえる」「虫垂が穿孔している」など、専門的なことばがたくさん出てきますが、読者の子どもたちがこれらのことばを自然に受けとれるのも、この絵本の写真と文の力です。


作品に登場するゆたかくん、おかあさん、おとうさん、先生、看護士さんは、「本物」に見えますが、実は全員が役者さんです。この人たちの渾身の演技力と、病院という非日常の舞台が組み合わさったからこそ、このような迫力のある写真絵本をつくることができたのかもしれません。

実際に救急車で病院に運ばれ、入院、手術と経験する機会は少ないものです。ぜひ、ゆたかくんになったつもりで緊迫感いっぱいの病院での一日を体験してみてください。

担当S ゆたかくんのおとうさんが「ぶどうの種ははきださないと盲腸になる」といいますが、ほんとなのかなあ?

2022.06.01

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