今月の新刊インタビュー前編|田中達也さん『くみたて』
6月の新刊『くみたて』は、ミニチュア写真家・見立て作家の田中達也さん初めての絵本です。分解された部品を作業員たちが組み立てていくと、いったい何ができあがるのでしょう…? 「見立て」の力で、見慣れたものが全く別のものに見えてきます。想像力を広げる楽しさがいっぱいの絵本『くみたて』について、田中さんにお話をうかがいました。Web限定公開の「後編」もお見逃しなく!
「見立て」の楽しみ
絵本『くみたて』刊行記念 田中達也さんインタビュー前編
―――子ども向けに作品を作るうえで、意識された点はありましたか。
やっぱり使う物ですね。見立てるモチーフは、小さい子どもでも分かる物、触ったことがある物がいいだろうなと思って。歯ブラシ、ピアニカ、海苔巻き……。うちの息子が対象年齢に近いので、ピンときやすい物を選んだつもりです。
見立てた後の風景が分かるかなというのも気にしましたね。例えば、眼鏡を飛び込み台に見立てている場面で、「飛び込み台って、そもそも知ってるの?」とか。高い所からプールに飛び込んでいる、ということは伝わるかなと思って、結果的には風景の中に入れましたが、そういう迷いはありました。逆に、親が教えてあげればいいかなと思った部分もあるんです。ふだん子どもと一緒に絵本を読んでいても、子どもたちに「これ何?」と聞かれることがよくあるので。
―――「見立て」は、田中さんの作品の核になるものですが、『くみたて』では見立てる物自体を「組み立てる」という過程があるのが特徴的ですよね。
今回、組み立てているところから見せよう、ということで絵本制作がスタートしたんですが、面白いなと思ったのは、分解されている物を組み立てるんだけど、できあがるのが「別のもの」というところ。歯ブラシの部品を組み立てる場面のあとに、完成した歯ブラシが出てくるかと思いきや、歯ブラシが「街灯」になった町が登場する……。ちょっとしたフェイクですよね。子どもが「何だよこれ」と突っ込みたくなるのがいいと思ったんです。この本のルールが分かってくると、組み立てたら「何ができるか」は分かるんだけど、今度は「何に見立てるか」を考え出しますよね。
僕が見立てを考えるときには、まず「形を簡略化」してみるんです。例えば「ロケット」に見立てるときは、「先がとがった細長い物」。そうすると、鉛筆もトウモロコシもロケットに見えてくる。『くみたて』に出てくるものだと列車。細長い物がいくつか並んでいれば、列車に見える。だったら、ほかのものでも列車ってできるんじゃない? なんて、絵本を読みながら親子で会話してもらえるといいなと思います。
―――ご自身が子どもの頃も、見立てて遊ぶのがお好きだったんですか?
遊ぶときに「見立て」って必要不可欠なんですよね。例えば、想像した街並みを作りたくても、全部をジオラマでそろえるのは難しい。だから、ティッシュの箱とか、家にある図鑑とかを重ねて、街みたいにしていました。最近だと、息子が「カーリングをやりたい」って言いだしたので、丸いお菓子の缶を貸したら、それを床に滑らせて遊んでいました。それもやっぱり、見立てですよね。「やってみたい!」と思っても、本物は手元にない。そんなとき、代わりにどうするか。親も協力しながら、「見立て」をうまく使って補えればいいと思うんです。
―――この本を読んでくれる子どもたちに、伝えたいことはありますか?
おもちゃがなくても、自分の頭で考えて、いくらでも遊べるんだよ、ということは伝えたいですね。「おもちゃ」っていわれる物だけじゃなくても、例えば食器を「円盤状の物」って考えれば、それを何にでも使える。以前、フリスビーがなかったので、プラスチックの皿を投げてみたら、めちゃくちゃ飛ぶんですよ(笑)。逆に、フリスビーでカレーを食べることだってできる。とらえ方次第で、どんどん広がっていくんです。
田中達也(たなか・たつや)
ミニチュア写真家・見立て作家。1981年熊本生まれ。2011年、ミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立てたアート「MINIATURE CALENDAR」を開始。以後毎日作品をインターネット上で発表し続けている。国内外で、「MINIATURE LIFE展 田中達也見立ての世界」を開催中。主な仕事に、2017年NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバック、日本橋高島屋S.Cオープニングムービー、2020年ドバイ国際博覧会 日本館展示クリエーターとして参画など。Instagramのフォロワーは350万人を超える(2022年2月現在)。著書に『MINIATURE LIFE』『Small Wonders』『MINIATURE TRIP IN JAPAN』『MINIATURE LIFE at HOME』など。
2022.06.01