日々の絵本と読みもの

大阪の小さな町の人情物語 『ほじょりん工場のすまこちゃん』

『ほじょりん工場のすまこちゃん』
小さい頃、だれもがお世話になった自転車の「ころころ(補助輪)」。「ころころ」があるから、絶対に自転車は倒れないし、安全なのですが、そのために、スピードがでないし、ときどき空回りしてしまう……。どんな子どもも、早く「ころころ」を外して、自由にいろんなところに行ってみたいと思うものです。

この作品の舞台は、大阪の小さな町にある補助輪工場。
ガッチャン、ガッチャン、ガッチャン、ガッチャン。
大きな音が鳴り響く工場に暮らす、すまこは、のんびりおっとりとした小学生です。自由気ままな春休みがやってくると、「ころころ」つきの自転車で、「のんびり ふらふら ガーラガラ」と、いい気分で町内をいったりきたりしています。友だちに、「おとうちゃんがころころ作ってるから、いつまでもころころつけてるん?」と、からかわれますが、「えーねん、こけへんし」と、すまこはちっとも気にしません。


ところがある日、「すまこ、補助輪をはずすぞ」というおとうちゃんの一言で、春休みはだいなしになります。努力なんてしたことのないすまこには無理としか思えない、自転車の練習が突然始まったのです。
「勇気や! もっと勇気だせ!」すまこのうしろからおとうちゃんの大きな声が響きます。
すまこは、坂道を登ったり下ったり、おでこにあせをかきながらペダルをこぎますが……。
昭和40年代の大阪の町を舞台にした、おかしくて、ちょっぴりしんみり、人情味あふれる、著者安井寿磨子さんの自伝でもあります。

モデルとなった主人公すまこの家の工場は、今も安井製作所として大阪の堺市にあります。“すまこのおとうちゃん”、安井清司朗(せいしろう)さんは、日本で初めて自転車の補助輪を作った人で、1958年に安井製作所を創業しました。鋏の職人だったおじいちゃんの工場に間借りしてはじめた補助輪工場で、棒の材料、太さに長さ、曲げる角度にいたるまで、こまかい工夫をかさねながら、丈夫で「ころころ」よく回る補助輪の部品を作り続けました。その姿は研究熱心な作中の“おとうちゃん”にかさなります。著者は、幼い頃みた町の風景、できごと、人間模様を、おどろくほど詳細に覚えていて、物語のあちこちに生き生きと再現しました。この安井製作所、2代目に引き継がれ、今でも補助輪を作り続けています。

担当S ころナシ自転車にのれたときの喜びは、今も忘れられません!

2022.02.18

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