日々の絵本と読みもの

子どもが元気になる乗り物絵本『しょうぼうじどうしゃ じぷた』

しょうぼうじどうしゃ じぷた
子どもたちは乗り物が主人公の絵本が大好きです。力強くてスピードがあって、かっこいい主人公はもちろんですが、子どもたちと同じように、小さくて弱々しいけれど頑張り屋さんの「じぷた」のような存在は、とても魅力的で共感できるようです。

『しょうぼうじどうしゃ じぷた』のお話は、高いビルにはしごをかけて火を消していくはしご車の「のっぽくん」、たくさんの水で激しい炎も消すことのできる高圧車の「ぱんぷくん」、そして、けが人をいち早く運んで助ける救急車の「いちもくさん」の大活躍を横目に、どんどん自信を失っていく小さな消防自動車「じぷた」の気持ちが描かれています。

いつも消防署のすみっこでさびしそうにしている「じぷた」……。自分のことがちっぽけで、みにくく思われて悲しくなる一方でしたが、ついにある日、出動するときがやってきます。小さな車しか入っていけないところで、火事がおこったのです。「じぷた」は、山火事を食い止めるため、サイレンを鳴らして飛び出していきます……。
ぷーぷーぷー ぷーぷーぷー


文は、わたなべしげおさん。物語は、昔話のようなシンプルな言葉で主人公「じぷた」の気持ちが淡々と語られていっていますが、この物語世界が生まれたきっかけは、著者が神宮で行われた出初め式を見学した折、巨大なはしご車やポンプ車のそばに、ジープを改造した小さな消防自動車がちょこんとさびしそうにとまっているのを見たからなのだそうです。

絵を描いたのは、山本忠敬さん。はしご車の「のっぽくん」は、少々スマートに、ポンプ車のパンプくんはたくましく、その2台とは逆に、小さな「じぷた」はときに自信なさげに、ときにやさしく誇らしげに描かれています。まるで車の二つのヘッドライトが目のように描かれ、場面によって表情がかわっていくのがわかります。(ラストシーンの「じぷた」の目はなんともうれしそうです。そして、「のっぽくん」「ぱんぷくん」「いちもくさん」は、すごいなあという目で「じぷた」を見ています。)

絵本『しょうぼうじどうしゃ じぷた』は、1963年に月刊「こどものとも」で掲載された作品です。1960年代初頭といえば、『いたずら きかんしゃ ちゅうちゅう』などたくさんの外国の絵本が日本に紹介された時代です。戦後のエネルギーを肥しに、芽吹いていった乗り物絵本の代表のひとつが、本作品といえます。1961年に月刊「こどものとも」で初めての横版の絵本として生まれた『とらっく とらっく とらっく』(同著者)と同様に、きっとこれからも永遠に読み継がれていくことでしょう。

担当S 「じぷた」の名前の由来は、「」+「てつ(著者渡辺茂男さんのお子さんの名)」なんだそうですよ。
 

2025.03.07

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