あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|とみながまいさん『あずきの あんちゃん ずんちゃん きんちゃん』

今月の新刊『あずきの あんちゃん ずんちゃん きんちゃん』の作者、とみながまいさんのエッセイをお届けします。とみながさんは、映画やTVCM、子ども番組などの監督の経験を経て絵本作家になりました。ある日、お手玉からこぼれ落ちたあずきの3きょうだいが、それぞれ将来の夢を持ちつつ、紆余曲折の末に、見事にあずきを実らせるという物語に、とみながさんが重ねた思いとは―。ぜひお読みください。

きらくに きままに そのままで

とみながまい

あんちゃん、ずんちゃん、きんちゃんの3きょうだいについて、ひさしぶりに* 想いをめぐらせていたら、あることを思い出しました。
人形アニメーションの仕事をしていた頃、「ストップモーションアニメーター」と呼ばれる、人形をチクチクと動かす方と長い間一緒にすごしました。彼女の仕事は「アニメーション」の語源のとおり、まさに「命を吹き込む」ことで、私は俳優さんと仕事をするのと同じ要領で、彼女とあれこれ話しながら演出をしていきました。
1秒間の動画のために、彼女の手が10回も人形を動かし、命をもらった人形が生きて考えて踊りはじめる…両手を通じて、彼女の魂そのものが人形に入っていくようで、まるで神の仕業だな…と見惚れました。
彼女は、左手も右手も使える両利きで、なぜそうなったのか話してくれました。
実は、中学生になるまで右利きで暮らしていたそうなのです。ある日、体育の授業でキャッチボールをしていたら、その後ろ姿を見ていた先生がポンポンと肩をたたいて、「左腕でなげてみたら?」と、彼女に言ったのです。
そこで、左腕でボールを投げた瞬間…「あ! わたしは、左利きだ!!」と稲妻に撃たれたかのように、確信できたというのです。その体験は、どんなに素敵だったことでしょう。
ご両親に聞いたところ、確かに幼いころは左利きで、何かと便利だろうからと右手を使うように促したのだそうです。物心がつく前のことで自分でも覚えていなかったのに、左腕は、「私にボールをなげさせて」とずっとこの時を待っていたのでしょう。
それから何年かのち、右腕と左腕は力をあわせて「人形に命を吹き込む」という素晴らしい仕事をするようになったわけです。
私はこのエピソードが大好きで、何度も誰かに話しました(そのうちに、少し脚色が入ったかもしれません)。左腕でボールを投げた瞬間、天から授かった自分の本当の姿を悟って青空を仰ぐ主人公…忘れられない映画の名場面みたいに、とてもワクワクするのでした。


「誰もが、自分の持って生まれたものをそっくりそのままに輝かせることができるはず、そしてこの世界を美しくしていくんだろうな」…この場面を思うたびに、そんな気分になって元気が出ました。それがいつしか、ボンヤリとした願いとなって…「あんちゃん ずんちゃん きんちゃん」の3きょうだいのハッピーエンドに繋がったのではないかと、今、思うのです。
…などと言いながら、私は現在、2人の男の子を育てていまして、「持って生まれたものをそのままに輝かせてほしい」という願いとは裏腹に、「親のいうこと聞いてくれい!」と、自由気ままな彼らに鬼の形相で大声を出すこともしばしばあるのが、現実です。
すると、あずきのきんちゃんが耳元で、
「きらくに きままに のんきでいたら みごとな あずきを みのらせた」
と、そっとささやいてくるのです。
そんな日は、甘い大福でもいただいて、子供たちとのんきにすごしたいものです。

* この絵本は、以前「こどものとも」2018年3月号として刊行され、好評につき、今回新たにハードカバー化することになりました。



とみながまい
東京都生まれ。多摩美術大学卒業。映画やTVCM、子ども番組などの監督の経験を経て絵本作家に。絵本に『ぞーっくしょん!』(「こどものとも年中向き」2019年2月号)、『ねこまたえん』(「こどものとも」2022年2月号/ともに福音館書店)、『こんこんと やさしい やさい』(教育画劇)、『うれないやきそばパン』(金の星社)、『あなふさぎのジグモンタ』(ひさかたチャイルド)など。東京都在住。

2023.01.11

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