今月の新刊エッセイ|飯野和好さん『ねぎぼうずのあさたろう その11 なかせんどう もどりたび』
今回ご紹介するのは、野菜たちが大活躍する痛快時代劇絵本「ねぎぼうずのあさたろう」シリーズの完結編『ねぎぼうずのあさたろう その11 なかせんどう もどりたび』。東海道各地を巡るあさたろうの旅も、いよいよ終わりを迎え、帰郷を決意したあさたろうは、中山道から故郷・秩父を目指します。あのねエッセイでは、作者の飯野和好さんが、21年間にわたって描き続けたシリーズへの熱い思いを綴ってくださいました。
ねぎぼうずのあさたろう 最後の旅
飯野和好
ねぎぼうずのあさたろうの股旅物語も、いよいよ最終話となった。
生まれ故郷の畑を飛び出し東海道をてくてく旅をする。因縁の悪い親分やつがしらのごんべえがやとった、用心棒の浪人きゅうりのきゅうべえとの対決と、思いがけない後日の展開! 〝ごまのはい(ぬすっと)〟のにんにくにきちと縁あって兄弟分となり、二人旅に。また、旅の途中で長旅に出ていたお父っつあん・ながきちとの再会。……ゆく旅の道中には、いろいろな事があり、そのたび関わりを持つあさたろうは、心意気晴々と解決して来た。それには、向かう敵もびっくりの、必殺ねぎじる飛ばしだ。あさたろうはねぎだ。なので体内エネルギーエキスのねぎじるをめいっぱい飛ばすと、当然相手は目に沁み! 身に沁みて、ひーっと参っちゃうのだ! そんな出会う悪人のキャラクターを作るのが楽しい! できるだけいかにも悪らしく。そして、ねぎじるで降参する時のおかしみを表現するのが楽しい! 読み語りの時もまた楽しい!
思い返すと、あさたろうが絵本として世に出て来るのはなかなか大変だった。まず痛快時代劇絵本というジャンルはなく、まして浪曲(ろうきょく)絵本なんてだれも聞いたことがない! 売り込みに歩いた出版社では、「浪曲!? えっ、チャンバラ!? ねぎじる!? こんなのはこども向けじゃないし、わからないですよ、飯野さん」と、まったくわかってもらえなく迷い道に入った。ある日福音館書店さんに、他の仕事で行った折に、見てもらったら担当の編集の方には、「そうでしょうねえ、こりゃ、なんだかよくわからないですもんね」と言われた。そこで「とにかく、この物語を絵本として世に出してもらえたら、家庭で、きっとこどもが『おじいちゃんこれ浪曲って書いてあるよ!』と言います。すると、おじいちゃんは、『ああ、知ってるよ浪曲、こりゃね、うーうーっと唸(うな)って語る面白いもんなんだよ』と言って、ほらおじいさんと孫のいい関係ができる絵本だと思います! 」とさらにアピールしたら、「なるほどそういうあり方も!? 」と言って、企画会議にかけて下さり、後日、電話で「飯野さん出す事になりましたよ」と連絡があった時は、本当に嬉しかった! 股旅道中浪曲絵本「ねぎぼうずのあさたろう」が世の中に出た! 乗りに乗って次から次へと物語が湧いて来て、呆れる編集者を説得し、シリーズ化となったのだ!
こどもの頃に親たちがラジオで聞いていた、浪曲。中でも二代広沢虎造の浪曲。清水次郎長伝が面白く、こどもにもわかり易く、よく真似して唸っていた。それを思い出し、あさたろうの物語に差し込んでみた。唸り朗読すると妙な面白さ! 楽しく作り続けてやって来た。
これまで旅して来た東海道は海街道、今回旅する中山道(なかせんどう)は山街道。山の暮しや気配は、山育ちの私にはよくわかる。樹々の匂いや沢の音、清々しい風の中、あさたろうはいよいよ故郷ちちぶへ向けて最後の旅をする。故郷・武州のとなり、上州生まれの国定忠治こときねつきちゅうじを助けた後、峠をこえて胸も高鳴る故郷(ふるさと)ちちぶの景観を眼下にあさたろうは、叫ぶのだ。おっかさーーん、おとっつあーーん、おようちゃーーんと!
読者の皆さんには、今まであさたろうを手に取り、読んで頂き、誠にありがとうございました。これからも、引きつづきあさたろうを楽しんで頂き、可愛がって頂けますように、宜しくお願い致します。
飯野和好(いいの・かずよし)
絵本作家、イラストレーター。1947年埼玉県秩父に生まれる。生家の農家の様子は『むかでのいしゃむかえ』(福音館書店)に、子ども時代の体験は『ハのハの小天狗』(ほるぷ出版)に描かれている。雑誌「an・an」の「気むずかしやのピエロットのものがたり」でデビュー。「くろずみ小太郎旅日記」シリーズ(クレヨンハウス)、「ねぎぼうずのあさたろう」シリーズ(福音館書店/その1『とうげのまちぶせ』で第49回小学館児童出版文化賞受賞、アニメ化され、第13回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作にもなる)など絵本の著書のほか、挿絵の仕事も多数。
2020.10.06