日々の絵本と読みもの

チョコレートの池にやってくるのは? 『チョコレートパン』

チョコレートの池にやってくるのは?

『チョコレートパン』

遠くに山々がそびえているオレンジ色の平原。そこに巨大な茶色いかたまりが。そうです、チョコレートの池です。その池に向かってパンたちがトコトコ歩いてきて、みんなでチョコレートの池に入ります。そして池を出ると……チョコレートパンのできあがり!


続いて誰かがやってきて、チョコレートの池に入ります。なにやら長いものを突き出してビュービューとチョコレートを吹き出しています。これはいったいなに……? 入っていたのはゾウでした。

その次にやってきたのは自動車。ブーブーと池にはいり、チョコレートカーになってまた走っていきます。さらに、いろんな動物たちがやってきてチョコレートの池に入ろうとしますが、そこに突然大きな声が。「パンだけです。あとはいけません いけません」。なんと、チョコレートの池が、みんなに向かってしゃべっていたのでした……。

奇想天外で、予測をすべてひっくり返すような展開に、初めて読んだ方は、ぽかーんと「はてなマーク」だらけになるようですが、理屈で理解しようとするのではなくて、心を開放して絵本の世界を味わおうとすると、なんともいえないおかしみと幸せ感があふれてきます。子どもは、敏感にそういう魅力を感じ取って、また繰り返しあじわいたくなるようです。

この絵本の作者は、『ごろごろにゃーん』『かえるとカレーライス』『へんなおにぎり』など、たくさんのナンセンス絵本を描いた長 新太(ちょう しんた)さん。長さんはチョコレートの甘い香りが大好きで、少年のころ、巻き貝の形をした「チョココルネ」や薄い紙をはがしてなめるチョコレートに心をときめかせていたそうです。そしてもうひとつ長さんの好きなものが温泉。というわけで、長さんの大好きなチョコレートと温泉が合わさって、この絵本が生まれたんだとか。そんな絵本が幸せでないはずがありません。

あらためて読み返してみると、池に入っているパンたちの誇らしい顔、そして、湯上がりならぬ、“チョコレート上がり”のゾウたちのなんとも満たされた表情。最後に池が「入っていいのはパンだけです」と宣言をするのは、チョコレートの食べ物としての矜持でしょうか? それにしてもこんなチョコレートの池が実際にあったらどんなにか楽しいでしょうね。今ではすっかり辛党な私も、ゾウが鼻を突き出している場面では、細長いプレッツェルの中にチョコが入った有名菓子を思い浮かべて食べたくなり、自動車が池に入っている場面では、小さい頃に憧れていた車の形のチョコレート(色とりどりの銀紙に包まれていました)を思い出しました。ナンセンスなおかしみとともに、誰もが子ども時代に抱いていたであろう、うっとりするほど甘いチョコレートへの憧れを、もう一度思い起こさせてくれる絵本です。


「日々の絵本」水曜担当・Y
チームふくふく本棚の長老。趣味は、お酒と野球とトロンボーン。

2019.02.13

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