【エッセイ】本の魔法|角野栄子さん
本の魔法
角野栄子さん
わたしが文字を読めるようになった頃、日本は大きな戦争をしていました。「日本は絶対勝つ」そう信じていましたから、食べるものが少なくても文句も言わずに、我慢我慢の毎日を過ごしていました。本も少ししかありません。もちろん街の図書館も学校図書館もありません。それで持っている少ない本を友達と貸しあって、繰り返し読んだりしました。また声に出して読むと、違った物語に出会ったようで、不思議に思ったこともありました。また感激すると、自分がその世界の主人公になってしまって、真似して歩いてみたり、同じ言葉を使ってみたり、友達と代わりばんこにお話を考えたりしました。また読んだ物語を絵に描いてみたりね。お腹は空いていても、また爆弾がいつ落ちてくるかもしれない恐怖があっても、本というのは退屈することのない遊び場を作ってくれました。いまになって思えば、本は想像する楽しさと、想像したことを表現する面白さをおしえてくれたのです。これはただの遊びではありません。そこから生まれるエネルギーは、目に見えない世界から何かを引き出して、それを表現したいという気持ちにさせてくれるのです。
本のページを開いて、物語を読んでいると言葉が雪のようにあなたの中に降り積もっていきます。それは積もり積もってあなただけの辞書になっていくでしょう。わからないことを教えてくれる辞書ではなく、あなた自身を表現することのできる言葉が詰まった辞書です。自分の言葉で語ることができれば、あなたの世界は広がり、あなたの個性は光り出すでしょう。本はそういう魔法とも言える力をもっているのです。
「魔女の宅急便」の一巻を出版してから、今年で40年経ちました。たくさんの人に読んでいただいて、とても幸せな本です。私自身もまだまだ豊富な辞書を持っているとは言えませんが、これからも本の魔法に助けられながら、自分の言葉で物語を書いていきたいと思っています。
ね、読みましょうね。本を、面白い物語を!
角野栄子
児童文学作家
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2024.12.18