【エッセイ】絵本『せっせ せっせ』で広がる子どもたちの「読み」の世界|山本賢一さん
絵本『せっせ せっせ』で広がる子どもたちの「読み」の世界
山本賢一
絵本には特別な力がある。
このことは教員になってからもずっと感じていることです。
「絵本」は小さな子どもたちだけでなく、小学校の低学年から大人まで引き付ける魅力をもっています。特に子どもたちは絵本の中で「言葉」以上に「絵」から物語を感じ取ります。この経験は普段の読書を豊かなものにしてくれます。
今回は、花山かずみさんの『せっせせっせ』(こどものとも年少版2020年8月号)という絵本を通して、4年生の子どもたちと体験した学びについて紹介します。
この作品を学習で取り上げようと思ったきっかけは、私自身の感動でした。『せっせせっせ』を読み、「みんなで園庭に大きな山を“せっせせっせ”とつくる」という世界に心がときめき、作者が書いた「せっせ新聞」(花山さんのHP「ハナカズ日記」より)を読みました。新聞によって、『せっせせっせ』の世界がこんなにも立体的に、豊かな広がりを持っていたのかと気づかされる、目から鱗の読書体験になりました。この感動を子どもたちといっしょに味わうことが読書の世界を豊かに広げるのではないかと考えたのです。
授業では、この絵本を「先生のお気に入りだよ」と紹介し、一人一冊の『せっせせっせ』を渡しました。子どもたちは興味津々。気持ちが高まる中、読み聞かせをしました。子どもたちは本当によく絵を見ています。読み進めていく度に、問わず語りに「この砂はどこから?」「ずっとボールをけっている子がいるよ!」等々、たくさんの意見が。さらに、どんどん大きくなるお山を見て「うそでしょーっ」と悲鳴にも似た歓声が上がり大盛り上がり。読み終わった後には、黒板に書ききれないほどの意見が出てきました。それでも言い足りない子がいたほどです。それはこの『せっせせっせ』が持っている作品の力に他なりません。
その後、「せっせ新聞」を紹介し、配ると一転。新聞の見出しに惹きこまれるようにシーンと静まり返り、しばし読みふけります。しばらくするとまた自然と「そういうことか!」「だからボールをけっていたのか」などと絵本と新聞とを一つ一つ照らし合わせる姿が。子どもたちは「せっせ新聞」と丁寧に描かれた「絵」を手掛かりにして、登場人物一人一人の物語があることや、物語後の世界など、言葉では示されていない広い世界を楽しんでいました。感想を苦も無くかけるほど、子どもたちの中には思いが詰まっていたようです。その後、幸運なことに、作者の花山さんにその感想を届けることができました。その交流からも新しい学びが次々に生まれていき、すべてをここに書ききれないのがもどかしくなるほどです。
この学習では、丁寧に描かれた絵本の絵を「読み」、そして、絵の中から聞こえてくる言葉に「耳を傾ける」ことができました。これこそが「絵本の力」だと感じました。
山本賢一(やまもと・けんいち)
埼玉県川口市立前川小学校教諭
2021.07.20