日々の絵本と読みもの

大爆笑の絵本『カニ ツンツン』

カニ ツンツン
カニ ツンツン ビイ ツンツン
ツンツン ツンツン
カニ チャララ ビイ チャララ
チャララ チャララ

絵本には、声に出して読んでみて、初めてその楽しさが感じられる作品があります。絵本『カニ ツンツン』は、とてもリズミカルで響きのあることばではじまりますが、なぜか心地よい音とリズムが耳に残り、口ずさみたくなってくるから不思議です。

実は、このことばは、アイヌの人々の「鳥のさえずる声」なのです。
にほんごにも似ているのか、親しみを感じるアイヌの美しいことばです。

他のページではどうでしょう……。
イーニ ミーニ ムー
ロッシーニ ショショーニ
スプモーニ トトーニ
スイート トスカニー
ツン

子どもたちにとって驚き!のことばが続きます。
イーニ ミーニ ムー は、英語の幼児語で「どちらにしようかな」。
ロッシーニ は、イタリアの作曲家の名。
ショショーニ は、北米の先住民の部族名。
スプモーニ トトーニ は、イタリアのアイスクリームの名称。
スイート は、英語の「甘い」。
トスカニー は、イタリア北部の州の名。

と、脈絡のないさまざまなことばがならびますが、長音「―」の連続に不思議な心地よさ、おかしさを感じてしまいます。


その他、邦楽の「トッチン ツン トチチリツン トチチリトン」といった拍子や、「スマッシュ スラッシュ ブラッシュ ウオッシュ」といった拗音(ようおん)の連続、「ー(英語の「いないいないばあ」) リ」といった破裂音の力強さなど、声に出して初めて気がつく楽しい音声、音韻のオン!パレードです。
子どもたちに読んでやると、最初はポカンとしていますが、すぐに笑い転げ、金関寿夫さんのことばの魔法にかかってしまうことでしょう。きっと金関さんはたくさんの民族、文化、言語に触れてきたからこそ、ことばを自在に楽しく組み合わせていくことができたのだと思います。

世の中はすてきな音であふれています。そのすてきな音は、響き、重なり合いながら、いつしか意味のあることばにかわっていったのかもしれません。
子どもたちの成長は、ことばの成長と重なります。
子どもたちには、たくさんのことばをいっぱい受けとめてすくすく育っていってほしいものです。

絵を描いたのは、『もけら もけら』『ころ ころ ころ』『がちゃがちゃ どんどん』でおなじみの抽象画家、元永定正さん。金関寿夫さんのことばのリズムにぴったり呼応しながら、元永さん独特の色と形が弾みます。

金関さんは、実はこの絵本の制作中に他界されました。今はきっと、雲の上で鳥のさえずりを聞きながら、子どもたちの笑い転げるようすを見ていらっしゃることでしょう。ツンツン。

担当S 「カニ ツンツン」の小さな赤い形は、必ずどのページにも登場しますよ。裏表紙まで追いかけながら読んでみてくださいね。ツン

2024.06.21

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